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業界交差点

この人に聞きたい:第143回
(週刊冷食タイムス:08/05/27号)

「あるべき」理想を持て

ヤヨイ食品(株)会長  奥脇 裕 氏

 

「理念」に勝る経営戦略はない

 6月24日付で常勤顧問となるヤヨイ食品の奥脇裕会長は1999年の社長就任以来、常に食品業界に新風を巻き起こしてきた。ネスレ日本、大正製薬、三國清三シェフを始め、数々の一流企業、有名シェフとの提携を推進したのも当時のビッグサプライズとして記憶に鮮明だろう。一方では21世紀の企業のあるべき姿を業界に率先して示すべく、「KIDS−シェフ!」(キッズシェフ)で子供たちの味覚教育を推進し、WFPの学校給食プログラムへの積極的な後押しや、カンボジアの子供たちに校舎を寄付するなど、社会貢献にも一貫した姿勢で取り組んできた。奥脇会長にこれからの冷食業界に必要なことは何かを聞いた。

安全・信用を最優先に
 ――51歳で社長に就任して8年、会長1年。長かったですね。

 奥脇 「我、21世紀のヤヨイ食品中興の祖とならん」との志を立てて後、あっという間の9年、夢のごとくでした。50代をひたすらばく進してきた感じです。環境は決してよくはなかった。本来は亥年生まれで攻めるタイプなのですが、守りに回ることが多かった。

 ――鳥インフルエンザ、SARS、BSE、パン粉の異物のもらい事故などがありました。

 奥脇 考えようですが、「疾風に勁草を知る」というように、おかげで当社は変化・変事に対して強くなったと思います。

 ――特に食品の安全に、企業がどう対応するといった問題が多かった。

 奥脇 他社に比べ、当社は最もしのげたほうでしょう。品質に嘘がないと、物創りへの誇りや直向きさ、誠実さが実証され、全国の卸や末端ユーザーから改めて信頼されたのはありがたいことです。これは藤田三郎元社長の慧眼だと思いますが、当時から品質保証の部署を社長直轄にしていました。ぼくもその点は継承しました。「疑わしきものは入れず作らず売らず」です。
 事故が起きないように事前の管理も重要ですが、起きた時に小火程度にとどめ、起きてしまった場合の対処も必要です。前始末、中始末、後始末、即ち、事前・事中・事後管理の3つの段階をしっかり押さえていくという事です。変事対応については、日清製粉グループさんとのアライアンス、つまり「知恵の輪創り」で学びました。事故の情報は不正確でもいいから、ともかく社長あてのホットラインに緊急連絡が入るようにする。社長はすぐに関係部署に伝えることが出来る。下から上にはなかなか伝わらないものですから、きちんと伝わる仕組み、風土をつくることが重要です。

 ――食品業界全体がレベルアップしている中でもヤヨイの品質保証は高いレベルだ。

 奥脇 もともと学校給食は品質に厳しい根っこがある。それに加え「安全・安心、信用・信頼こそが第一であり、売上・利益は第2位。一番ではない」という理念を徹底しました。船場吉兆は売上げや利益が第一だったのでああなったと思います。

 ――9年でヤヨイ食品が充実したという実感は?

 奥脇 スタート時の目標は「日本代表の小さな世界企業を目指そう」でした。(1)経営理念(2)環境理念(3)CSR社会貢献理念の3つで先進性を持とうと決めました。21世紀先進企業で働く世界企業市民、地球市民として、どれか1つではなく、全体的かつ総合的に心と形を創っていこうという事です。先進性を持ち、業界にとってよき前例となればいいと考えました。
 まず、会社としての「人の質」は高まったと思います。それが集まって経営品質が高まる。社会的な存在感と存在価値が高まり、もっと言えばお客様に信頼され、期待され、愛される会社になるのです。我々は「食品夢工房」であり、「顧客感動創造企業」だと言い続けてきましたが、理念に勝る経営戦略はないと思っています。ややもすれば戦略先行になってしまうものですから。
 とはいえ、お題目を飾るだけではいけません。社長だけが知っているような理念でも駄目。社会貢献活動も地道に身の丈に合わせて進めること。「積善の家に余慶有り」と、コツコツと行なえばいつかいいことがあるものです。もちろんそればかり期待していてもいけませんけど。

キッズシェフ卒業生1900人
 ――CSRでは児童の味覚教育などを実践してきた。

 奥脇 キッズシェフは学校給食へのご恩返しです。中心人物である三國清三シェフによれば、フランスでは以前から彼の先輩や仲間のシェフたちが、同じようなことをしており、今でもシェフが学校を訪れ料理教室を開くのが普通に行なわれています。
 当初は理解されなかった。「なんで部外者が学校に入る」、「火を使う実習は危ない」と一蹴されたそうです。そこで当社がシェフと学校との架け橋となり、三國さんはシェフ仲間を集めることで始めました。押し付けるのではなく、是非来て欲しいと望んでくれる学校だけを対象に、「10年は続け、国からは援助をもらわない」と決めた。既に32校、1900名の小学生が受けました。
 2000年11月にスタートしたので、最初に受けた子供は20歳になっています。32校ですから、子供たちやその両親、関係者達も含めると全国で約4万人が知っている計算になります。「ヤヨイ食品が協賛している」と知られているわけで、児童の感想文に当社のことが書かれれば社員のモチベーションも高まるというものです。このほか京都で大和学園さんにもご協力いただき、インターナショナルキッズシェフも2回開催しました。
 老人向けにシニアシェフも手がけました。昨年は長岡京市で平和堂さん、大正製薬さん、日清フーズさんと初めて実施しました。講師は京都の名店「草喰なかひがし」の中東久雄さん。キッズシェフも手伝っていただいた方で、「和食の職人も何かしないと」と言ってくれました。今後は老人ホームを訪ねていこうと思います。分とく山の野崎洋光さんも手伝っていただけることになっています。

 ――キッズシェフに参加した子供たちがどのように育つか知りたいですね。

 奥脇 少しずつその後の様子を追いかけてみたいと思います。

カンボジアの小学校に校舎寄付
 ――国際貢献にも熱心ですね。

 奥脇 WFPの学校給食プログラムには会社としても参画していますが、学校給食用食品メーカー協会の会長を務めた時に呼びかけたら、日本給食品連合会や熊本のハウディさんがすぐに呼応してくれました。

 ――今年はカンボジアのコンターナン小学校に校舎を寄付した。

 奥脇 世界では約1億2000万人の子供が学校に行けないとのこと。カンボジアではポルポト政権の時に読み書きが出来る150万人が虐殺され、そのうち20万人が教師でした。ユニセフの資料ではカンボジアの子供の就学率が65%。安全な水を飲める子は30%。5歳未満の死亡率は13.5%です。東アジアで最も悪い数字。日本の敗戦後にカンボジアは米を贈ってくれた。今は日本が手伝う時。野口食品さんは当社より早くから校舎を贈っていますし、今は芸能人にも活動が広がっています。盛り上がることはいいことです。

 ――それによって得るものは?

 奥脇 基本は、「心施」。見返りを求めず心を施す事ですが、逆にこちらが教えられる事が多い。親切はしている側も心が磨かれますから。食品関係の不正が頻発していますが、いくら規則でがんじがらめにしてもえてして頭のいい奴はその上をいく。アメリカも今はルールのためのルール作りのようになってしまったと反省期に入っています。やはりルール、ルールの前に人としてまず心すべきこと、なすべきことがあるのです。 

社会貢献はコストからマストへ
 ――それが時代の流れ。

 奥脇 時代は「貢献から責任へ」。「(ソーシァル)コストからマスト」へです。義務として嫌々するのではなく、しなくてはならないことなのです。環境対策も同じこと。社会貢献と環境対策の2つを企業の中にきちんと取り込めない経営者や、ただ儲けるだけで環境を顧みない企業は21世紀のパスポートを手に入れられません。貢献活動などを特に自慢するつもりはなく、他社が参画してくれることを歓迎します。カンボジアでは孤児院も訪問しましたが、子供たちは「医者になるんだ」、「会計士になりたい」と志を持っていました。日本とは大違いだと社員がおどろいていました。下手なセミナーよりよほど勉強になります。

 ――なるほど。コストと考えて「やらされている」ではなく、「マスト」でありしなくてはいけないということですね。

 奥脇 「積善の家に余慶有り」といえば、こんなこともありました。新入社員の応募学生が面接で「安全を利益より優先する経営理念に魅かれました」、「キッズシェフの活動に共感しました」、「環境に対しての姿勢です」と言ってくれる。若い人の新しい時代への感性が変化しているのです。
 こうした志望理由をあげる学生は年々増えています。望外のよろこびです。子供から「僕の学校にもキッズシェフに来てください」と電話がきたこともあります。

 ――1〜2年後にはキッズシェフを受けた子供が入社する可能性もありますね。

 奥脇 環境については、社長時代に清水と気仙沼の両工場をHACCP対応にし、環境に優しい工場に変えました。随所に省エネ、省資源、省人化をほどこし、ノンフロン冷凍機や高効率ボイラーを導入しました。気仙沼工場は災害時の避難場所に指定され、社員と住民が一緒になって避難訓練をしています。全社でISO14001も取得しています。環境対策は今や待ったなしの状況ですから。

 ――異常気象がおきるくらいだ。

 奥脇 両工場はたまたま地震が多い地域でもあり、耐震構造も十分なレベルにしました。社員が財産ですから、儲けろと叱咤する前に命を守る事が大切。社員の家族からも感謝されました。会社は社員が誇りを持てるものにならなくていけませんし、工場はネスレさんなどワールドクラスの大企業が見に来ても誇れるようにしなくてはいけないと思います。

 ――世界一流の職場作りですか。

 奥脇 もちろん上には上がいるとわかっています。

 ――他の企業とのアライアンスも取り入れてきた。

 奥脇 経営の基本は人創り、物創り、知恵の輪創りと考えました。人創りは大変なことですぐにはできませんが、何か一流の部分を持つ会社に学べば早い。それが知恵の輪創り。トップ同士が電話1本で話を決められる環境作りも大切です。カゴメさん、日清製粉グループさん、不二製油さんも我々が学ぶべきいいところをたくさん持っておられる。中国・龍大の宮社長も、あの国では珍しく日本のことを良くわかっている。今、特に力を入れている大正製薬さんとの医食同源型事業展開をどこまで具現化できるかがポイントになります。大正製薬さんは食品にも事業を広げようとしており、いくつかの候補から当社を選んでくれました。少子高齢化時代に何とかふんばっていこうということです。

 ――2社で健康食の事業を進めると?

 奥脇 2社だけでは事業展開に限界が出てきます。戦略シナリオとしては、まず2社でしっかりと足場を固め、戦略プラットフォームを創り上げた上で、将来の事業展開に一段と広がりと膨らみを持たしてゆくため、あと数社に共同参画していただく予定です。そうすれば技術融合がおき、日本での同カテゴリーのトップを目指せます。多少の時間がかかってもいい。当社は冷凍だけではなく、缶詰・レトルトの技術もあります。医薬データは大正製薬さんが強い。だから作るのはまやかしの健康食品ではありません。ですが、高品質でおいしくなければ売れません。その部分で当社の出番がある。

 ――優れた企業同士が結びついた時にプラスαとして何が生まれるのか楽しみですね。

 奥脇 引き継いだ藤嶋社長もこの共同事業は経営最優先、最重要戦略課題として「この分野でしっかりと基盤を創っていかないといけない」という意識を持っています。世界的に見ても、健康事業は有望です。世界一高齢化社会化が進んでいる日本のビジネスモデルを、既に世界中が注目しています。社員が海外で製造ノウハウを広めたり、販売先を広げに雄飛する時代が来るかもしれません。有名シェフも応援してくれていて、脇屋友詞シェフは医食同源の本場である中華料理ですし、三國シェフも参加していただけることになっています。大正製薬さんにとっても上原社長直轄のプロジェクトです。

「セキュリティネットワーク」を
 ――冷食業界の現状は厳しい。今年は特に足をひっぱる事件もありました。

 奥脇 天洋食品の事件がもしも飲料だったらどうでしょうか? あれは明らかに邪悪な無差別テロであり、殺人未遂。フード・バイオテロの一種です。世界ではフード・アズ・ウエポン(武器としての食品)と言われはじめ、国境を越えた食品テロを懸念しています。
 日本の冷凍食品の消費量は1人当たり20kgですが、アメリカの60kgはともかく、フランス並みの30kgには届くでしょう。ですから我々は一時的なテロなどにはうろたえず、こういう時こそ将来に自信と確信をもつべきです。
 ただ、食品テロには並々ならぬ意識で対抗すべきでしょう。製造、流通、ユーザー、販売店が一体となって、消費者の口に入るまでの管理、監視を徹底しないといけない。今までは「バリューチェーン」でしたが、これからは「フード・セキュリティ・ネットワーク」、「セキュリティー・チェーン」が必要になると思います。アメリカでは「フロム・ファーム・トゥー・テーブル」、つまり産地から食卓までのフードセキュリティを構築しなくてはいけないという考えが出ています。コーネル大では薬物検知の可能なパッケージが開発されたと聞いています。世界中で食の安全にかかわる展示会が開催される時代です。
 食品の安全対策は(1)個別(2)業界(3)国家レベルで行なわれていますが、今は4番目として国対国の取り組みも必要になっています。しかし今回のように中国と日本で互いに面子があり解決できないことが起きる。ですから5番目としてNGOやNPOの形でのグローバルガバナンスが必要です。これがなくては鉄壁な「食の安全」は守れません。

 ――食品テロ対策ですか。

 奥脇 潜在的には昔からあった考えです。アメリカで頭痛薬タイラノール事件が起きた時、対策の適切さでジョンソン&ジョンソンは信頼度を高めました。日本では江崎グリコ事件がありました。ところが、あまり声高に食品テロ対策を叫べば必ず愉快犯が出てしまうので言えない部分もありました。
 しかし、今はむしろ個別企業はもとより、全ての食品関連業界をあげてフードセキュリティチェーン、鉄壁の守りを構築してあるから「どこを狙ってもムダだ」と諦めさせることのほうが大切かもしれません。事件が未解決なために信頼を損ねたままというのは非常に残念なことです。

石油ショック時より深刻な現在
 ――食品原材料の高騰も頭が痛い。

 奥脇 今や時代は全く一変し、石油ショックの時より深刻なのです。なのに、トイレットペーパー不足のような騒動が起きないと、消費者は今ひとつ切迫感が沸かないのでしょう。今の食糧高騰は構造的なもので短期間では解決できないこと。ベルリンの壁が崩壊した後は東側から安い物資が流入し、日本の冷食メーカーも海外進出した。ところが今は買えない、集められない。「狭いコップの中で身を削るだけの競争をしていたら、日本そのものがだめになる」ということ。地球的規模で21世紀の新次元の価値体系、価格体系への転換を迫られている中、日本だけが世界に取り残されてしまいます。日本にはこうしたグランドデザインがないと思います。世界は水、空気、大地をどうするかを真剣に考え始めました。

 ――調達の戦略は?

 奥脇 調達戦略は国家レベルで考えなくてはいけません。中国も食糧問題はトップ外交です。食の世界では安全を無視した覇権主義は通用しません。一つ事故を起こせば企業そのものが吹っ飛んでしまいます。食品は石油や金融のグローバリズムとは違います。力の論理でビジネスは出来ません。そこをしっかりと認識しなくてはいけません。食は人の生命と健康を預かる聖なる仕事です。食の仕事に携わる者としての大いなる誇りと使命があります。ビッグよりグッド。食のライフスタイル提案力が問われる時代です。冷食はライフスタイルに即応できる重要な産業です。作り手はもっとチャレンジすべきでしょう。

 ――1人20kgが30kgになれば、5割アップです。

 奥脇 まさに「志ある処に道あり! 情熱・執念ある処に活路あり!」です。思えば成る。30kgに必ずなる、させてみせると思い定めるところに色々いい智恵が出てくるというものです。もちろん海外展開もあるでしょう。日本の食文化を背景にして日本の冷食を売っていくことでも伸びる可能性はあります。難しくても、トップがブレイクスルー&チャレンジ(挑戦突破)するのだと思わなくてはできません。トップは常に夢と理想を掲げ、新しい時代を切り開き、社員の活躍の場、舞台を創ってゆかなくてはいけないのです。

食品業界に入って良かった事
 ――その意味で、業務用の世界は、戦後全く知られていなかった冷食市場を一から開拓してきた。

 奥脇 伊藤忠商事から引き続き食品業界に来て良かったと思うのは、小売や外食などの皆さんはもちろんのこと、特に地域の卸で活躍してきた方々と会えたことでした。皆さん、いずれ劣らず、器量、才覚、人間的魅力がある。経営者として腹が据わっている。人間性も細やかでホロリとさせられる事も多々ありました。そうした素晴らしい方々との出会いと、ありがたい御縁に本当に心から感謝しています。いただいた御縁を、これからもずーっと大切にしてまいりたいと思っています。

 ――業務用卸は世代交代の時期でもあります。

 奥脇 能の世界にも守、破、離とあるように、2代目がどうやって殻を破るかですね。私はずいぶんお世話になったので、その御恩返しの気持ちで2代目も公私共々に応援していきたいという気持ちです。

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