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この人に聞きたい:第241回
(週刊水産タイムス:10/05/24号)

IWC議長提案の行方 私はこう見る

東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員  大久保彩子氏

 

コンセンサス採択は微妙な情勢
沿岸捕鯨の公認は日本の利益に

 今回の議長案の改訂版は、IWC議長と副議長による提案という形をとり、各国の合意を意味するものではないと明記されている。6月のアガディール会議閉幕までに全てのIWC加盟国にとって合意可能な文案とすべく、さらに修正が加えられ、コンセンサスでの採択が試みられることになるが、各国の意見の隔たりは大きく、合意の可能性は全く楽観視できない。
 IWC議長案の核となる要素は、2020年までの10年間を暫定期間とし、その間、これまで捕鯨国の裁量で行われてきた調査捕鯨と商業捕鯨(モラトリアムへの異議申し立てによる)をIWCの管理下におき、捕獲頭数は大幅に削減することである。
 議長案の原案では、その具体的な捕獲頭数は「未定」とされていたが、今回の改訂版では、海域および鯨種ごとに捕獲頭数の上限が記入された。ただし、これらの数字はあくまで「例」であり、議論を促進するために提示したに過ぎない。

 ★南極海
 ミンククジラの捕獲上限は、暫定期間の前半5年間は毎年400頭、後半5年間は毎年200頭という数字が記入された。暫定期間では現在の捕鯨国に操業を限定するという点は原案のまま変わっていないため、これらは、現時点で南極海において唯一、捕鯨を行っている日本による捕獲を想定したものである。
 日本からすれば、もともとの計画ではミンククジラは850頭±10%の捕獲を予定していたのだから、400頭はその半分以下であり、大幅な削減であると主張する。赤松農林水産大臣は4月23日の記者会見で、特に暫定期間の後半5年間について、より多くの捕獲が認められるよう、アガディール会議での交渉に当たるとした。
 一方、過去の捕獲頭数の実績をみると、ミンククジラの捕獲が800頭台にのぼったのは2004/05年の1シーズンのみであり、ここ10年ほどは400〜500頭台が多かった。
 こうした過去の捕獲数と比べると、400頭は「大幅な削減」には見えない。日本がこれまで計画通りの捕獲を行えなかったのは、火災事故やシーシェパードの妨害活動の影響が大きい。もちろん、オーストラリアをはじめとする反捕鯨国も、人命を危険にさらす妨害活動には強く反対している。
 しかし、調査捕鯨をその開始以来、日本の一方的な行動と捉えてきた国々からすれば、そもそも400〜500頭という従来の捕獲頭数も「最初から認めていない」ということになる。
 調査捕鯨は国際捕鯨取締条約の第8条を根拠に実施されていることから、「IWCで認められた」活動であると言われることが多いが、捕獲頭数を含む調査内容は、基本的に実施国の裁量で決めることができ、事実上、国際的な規制がかかっていない。そのため、反対国からすれば、日本の調査捕鯨を「認めた」ことは一度もないし、日本は条約第8条を商業捕鯨モラトリアムの「抜け穴」として使っている、との思いが強い。
 さらに、日本は1987年当初はミンククジラのみ、300頭前後で開始した調査捕鯨を、2005年以降には、計画上はミンククジラ850頭±10%、ザトウクジラ50頭、ザトウクジラ50頭に拡大した(いずれも年間の捕獲頭数)。このことは、「調査捕鯨である限り、日本は捕獲頭数も鯨種も、思い通りに拡大できるのだ」という挑発的なメッセージとして受け止められた可能性もある。
 日本の調査捕鯨の捕獲海域は、オーストラリアおよびニュージーランドが南極大陸で領有権を主張している部分の沖合海域と、ちょうど重なっている。南極地域における領有権は南極条約によって凍結されてはいるものの、南極海の太平洋側は豪州、NZにとって裏庭のようなものであり、日本がはるばるやってきて、科学の名のもとで鯨を捕獲することへの反発は強い。
 このことは、過去にIWCにおいて、致死的な調査捕鯨を廃止し、捕鯨国の排他的経済水域内に限り国際規制のもとでの捕鯨を認める(つまり、南極海での捕鯨をやめるかわりに沿岸捕鯨を認める)提案が1997年にアイルランドから提案された理由でもある。
 これらの点を考え合わせると、南極海でのミンククジラの捕獲頭数を年間400頭とすることで反対国の合意を引き出すことは極めて難しい。これが、たとえば暫定期間を通じて年間200頭台であれば合意の可能性は十分にあるし、もし交渉が決裂した場合にも、「日本は十分に低い頭数を示したにもかかわらず、原則論に固執する反捕鯨国が妥協に応じなかった」ということができる。

 ★北太平洋(生存捕鯨を除く)
 同海域での過去の捕獲頭数の実績値と比べると、ミンククジラについては最近の捕獲実績とほぼ同じである。マッコウクジラは従来の数頭の捕獲がゼロに、イワシクジラとニタリクジラは捕獲実績の半分以下の数字になっている。アガディール会議では、改訂版で示された頭数が「大幅な削減」と評価されるかどうか、議論になる可能性はあるが、先述したような理由から反発の強い南極海での捕鯨に比べて、頭数削減へのプレッシャーは相対的に低いと考えられる。
 改訂版のとおり認められれば、IWC公認の活動として沿岸捕鯨が実施できることになり、過去に商業捕鯨モラトリアムによる沿岸捕鯨関係者の窮状を訴え続けてきた日本の立場からすれば、大きな利益といえる。
 ただし、一部の国々は、北太平洋における定置網での鯨の混獲問題との関係で、さらなる捕獲数の削減を要求するかもしれない。たとえばミンククジラの混獲数は公式な報告があるだけでも日本で年間130頭前後、韓国では年間約200頭と、相当数にのぼっており、IWCではこれを問題視する動きが以前からあるものの、議長案の原案でも改訂版でも、踏み込んだ対応が盛り込まれていないからである。
 
 ★北大西洋(生存捕鯨を除く)
 議長案改訂版に記入された北大西洋での捕獲頭数(生存捕鯨を除く)は、ミンククジラが年間680頭、ナガスクジラが年間80頭である。現在、北大西洋で操業しているノルウェー、アイスランドによる捕獲を想定したものであり、最近の捕獲実績を上回っている。これらの数字の根拠は確認する必要があるが、議長案の改訂版では、以下の2つの点でノルウェー、アイスランドにとって不利な内容となっているため、捕獲数という点では多めの数字を示したとも考えられる。
 両国にとって不利な内容とは、第一に、捕獲した鯨の利用を国内に限定することが(まだ括弧つきではあるが)盛り込まれていることである。これは鯨肉等の日本への輸出を希望してきたノルウェー、アイスランド両国にとって、捕鯨による将来の経済的利益を阻害することになる。第二には、暫定期間中の一連の措置に対しては、条約第5条において規定されている異議申し立ての行使を加盟国が自ら控えることを誓約する、との内容である。

 ★生存捕鯨
 生存捕鯨はロシア、デンマークの要求を概ね反映した改訂がなされた。

【その他の改訂ポイント】
 (1)捕獲枠は、RMPで算定された枠よりも低く設定
 (2)未解決の問題を協議するための作業部会を新たにアガディール会議で発足
 (3)調査プログラムの透明性を確保
 (4)鯨製品の流通前のサンプル取得を義務付け
 (5)違法・無報告・無規制(IUU)捕鯨への対策
 アガディール会議では、この議長案改訂版にさらなる修正を加えていく作業がなされ、すべての加盟国が合意可能な文案を完成させ、コンセンサスによる採択が試みられる。
 しかし、オーストラリアは議長案の原案が発表された時点ですでに反対を表明しており、その態度は依然として軟化してはいないため、アガディール会議でも合意文案に反対する可能性が高い。
 1カ国でも反対を表明すればコンセンサス採択はできないため、投票に付すかどうか、が次のポイントになる。投票に付された場合、IWCで共通ポジションをとるEU加盟国の動向が注目される。
 EU加盟国が一致して合意文案に反対すれば否決の可能性が高いが、EU内部で意見統一ができず棄権した場合には、採択される可能性がでてくる。また、コンセンサス採択に失敗した場合、投票に付さず、結論が先延ばしにされるかもしれない。現在の交渉プロセスはアガディール会議が最終期限とされているが、「これまでに構築した友好的な雰囲気を壊してはいけない」などといった理由をつけて先送りすることも十分にありうるだろう。
 しかし、この場合、これまで非常に長い時間と多額の費用をかけて繰り返し会合を行ってきたにもかかわらず、何の交渉の成果もなく、繰り返し先延ばしされることに対し、強い批判が起こって当然であろう。

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