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この人に聞きたい:第331回
(週刊水産タイムス:12/03/05号)
極洋 福井清計会長、故久井惠之助ニチロ元社長との思い出を語る
極洋 福井 清計会長
「エビの相場はどうかね」
ライバルというより兄貴 ――福井会長は極洋、久井さんはニチロ。出身も早稲田(福井会長)と慶応(久井氏)ですし、どのような接点があったのですか。 福井 年齢は久井さんが私より5歳上でしたので、ライバルというイメージはなく、弟分のように可愛がっていただきました。 私が極洋に入社して7年ほど経ったころ、エビの営業を担当し、毎日、早朝の築地通いをしていました。久井さんは既に十年選手で、名古屋営業所の勤務を経て、本社水産部に戻ってこられた頃です。 築地では久井さんが東都水産、私が中央魚類を主に回っていましたが、共通していた取引先の1つが当時の大栄太源(現ショクリュー)。 まだ、駆け出しの雰囲気が残っていた私に比べ、一回り体が大きく、肩で風を切って堂々と歩く人がいました。事務所に入るなり「おい、コーヒー!」と大栄太源の女子社員に命じています。「随分と存在感のある営業マンだな」。それが久井さんの第一印象でした。
――強烈な出会いだったようですね。 福井 会社こそ違いましたが、同じエビを担当していたことから顔馴染みになり、その後は親しくお付き合いさせていただくようになりました。 久井さんの社長時代、私は専務か常務の頃でしたが、たまに「エビの相場はどうかね」などと電話がかかってきました。私が自分の考えを正直に答えますと、久井さんは「ふんふん、そうか」「やっぱりな」などと相槌を打たれた後、「分かった、ありがとう」と言われて満足げに電話を切るのです。 ニチロの社長ですし、水産をずっとやってこられた方ですから、当然、ご自身の見方、考えをお持ちだったはずです。 市場動向を見極める私の目が確かかどうかを試しておられたのか、ニチロの現場から入ってくる情報に対して、何らかの裏付けを取ろうとされていたのか、もはや知る由もありませんが、業界の中で会社の垣根を越えたお付き合いをさせていただけたことは非常に良かったと思っています。 「極洋には福井がいるから」。深い意味はないと思いますが、久井さんがよく口にされていたとニチロの人から何度か聞いたことがあります。
――仕事以外の交流も深かったようですが。 福井 マージャン、ゴルフ、競馬もご一緒させていただきました。特に競馬は熱心でしたが、久井さんはギャンブルというより、馬のレースそのものを楽しむという感じでした。いわゆる博打打ちではなく、どこまでも馬を見ることを楽しんでおられた。いつだったか、下関の松岡さん(株式会社松岡)の馬が優勝したことがありましたが、あの時の久井さんの笑顔は、今でも鮮明に脳裏に焼きついています。
――仕事面では、久井さんは社長時代に総合食品会社としてのニチロの基盤を確立されるなど、顕著な業績を残していますね。 福井 私も社長を経験して痛感しましたが、久井さんも大変なご苦労があったと思います。にもかかわらず、包容力といいますか、そうした苦労を表に出さない懐の深さが久井さんにはありました。 持ち前の決断力は山岳部時代に培ったものでしょう。リーダーとしての資質と侠気(きょうき)に富み、口は悪いが、それでいて悪気はない。それがよく分かるから、余計に慕われたのではないしょうか。
――実に存在感のある人でしたね。 福井 「また、メシでも食おうな」と言われていたのですが、それが叶わず、残念でなりません。極洋の私がいうのも何ですが、ニチロの社員は幸せだったと思いますよ。 (聞き手=越川宏昭本紙社長)
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