この人に聞きたい:第1007回
(週刊水産タイムス:25/11/17号)
広域連合での水産流通が今後増える
一般社団法人全国水産卸協会 会長 吉田 猛氏
全水卸・吉田猛会長に聞く
一般社団法人全国水産卸協会の吉田猛会長(築地魚市場会長)に卸売市場を中心とした水産物流通の課題と今後の展望などについて話を聞いた。
――卸売市場の現状と課題について。
吉田会長 全国の市場卸の取り扱い数量は減少傾向にある。根本的な原因として近海での不漁や、水産物輸入量の減少などが挙げられる。
取扱数量を増やすためには、資源管理を徹底し近海での漁獲を増やす必要がある。10年かかっても良いので、国の施策として真剣に取り組んでほしい。
また、天然資源だけでなく、養殖魚の重要性も増してきており、生産量を増やす必要がある。時間はかかるが、国として養殖魚の生産を増やし、天然魚の減少分を補完できれば、水産業界全体が良くなる。
――将来の市場のあるべき姿について。
吉田 全国の漁師が漁獲する鮮魚を販売する営業マンとして、また冷凍・塩干加工品の提案、集荷・分配機能として、水産卸は不可欠な存在と言える。
数10年前の水産卸の仕事は、各エリアの中で起承転結が完結していたが、現在は物流網が発達し、エリアごとに完結する水産流通の流れがそぐわなくなってきている。今後はある程度大きな拠点市場を中心とした広域連合での仕事が増えてくる。
イワシやサバなど数量が多い大衆魚や旬の魚は、2024年物流問題に伴うトラックドライバーの働き方改革の問題などもあり、拠点市場と地域密着型の市場との有機的連携が必要になる。拠点市場で全ての商物流を担うことが出来る訳ではない。今後10年をめどにそのような流通が増えてくる。
関東を例にすれば、豊洲市場に全国から荷が集まり、そこから東京近県の卸売市場へ商品を届ける事例が出てきている。大阪なども同じだと思う。物流を考えるとその方が効率的と言える。
10年後、卸売市場の存在感は増す
――市場整備について。
吉田 先日、大日本水産会のメンバーとして鈴木憲和農水大臣を表敬訪問した際に、卸売業界として市場整備についてご尽力いただきたいとお願いした。
全国に64ある中央卸売市場の5割弱にあたる28市場は、40年以上の間、移転・大規模整備を行っていない。市場整備には膨大なお金がかかる。特にこれからは衛生面や物流効率を高めた近代的機能が求められ、建設には昔以上にお金がかかる。国の施策として市場整備を進めてほしい。
――あらためて市場流通の強みは何か。
吉田 入荷と出荷が水産卸の最大の使命。単なる物流センターと違い、目利き、適正価格、加工など様々な機能があり、商売が行われている。鮮魚などの生鮮物流ができる機能があるのは卸売市場だけ。そこに強みがある。
――2024年物流問題の影響について。
吉田 課題としては、トラックが小さい市場に寄らなくなってしまい、大きい市場をハブとして、そこから小型トラックで各市場へ運ぶような流れが出てきている。そのため、本来地元でしっかりと商売を行っている市場に荷物が集まりづらくなっている。このような変化の下で大きな市場と小さい市場間の連携強化が始まっており、全体として良い方向に向かっている。10年後に卸売市場の存在感は増してくると思う。
東北6県を例にすると、東北で消費される塩干品を各地域に届けるためには、人口の少ない地域まで届けられる物流体制を組み立てなければならない。それが課題と言える。
鮮魚の市場経由率は7割以上
――水産物の消費拡大について。
吉田 水産物の消費拡大は常に心掛けているが、供給が増えなければ、どうにもならない。魚食普及活動も重要だが、水産物の供給を増やす施策を官民が連携して取り組んでいけば、おのずと魚の消費は増えると思う。
最初にも話したが、漁獲を増やすためには資源管理がカギを握る。科学的に裏付けされた資源管理を進めていく必要がある。
近海の鮮魚を販売するのは卸売市場の役目。水産物の市場経由率は50%を切っているが、鮮魚だけに限定すれば経由率は7割以上あると言われている。国産の近海魚の営業網は市場にあり、漁業者など出荷者の商品を販売する営業マンが水産卸と言える。