この人に聞きたい:第134回
(週刊水産タイムス:08/03/17号)
寿司ロボットの海外展開は?
鈴茂器工株式会社 社長 小根田 育冶 氏
ブームから食文化に定着/地域に応じ柔軟
かつ慎重に/江戸前寿司にこだわらない
少子高齢化で食品全体の消費が伸び悩む日本に対し、寿司を中心に水産物の需要が高まっている海外市場。寿司の大衆化で立役者となった寿司ロボットの活躍の場は世界へと広がってきた。寿司ロボットメーカー最大手、鈴茂器工の小根田育冶(おねだ・いくや)社長に今後の方針を聞いた。
今期は増収増益
――第3四半期(4〜12月)までの業績を見ると、今期は増収増益で着地しそうだ。
小根田 「寿司ロボットを例にとっても、回転寿司の出店ラッシュがあったわけでもなく、少子高齢化で決してマーケットが拡大しているわけではない。ただ、厳しい競争にさらされている外食・中食業界では少しでもコストダウンを図りたいというのが正直なところ。人件費などのコスト削減に直結する寿司ロボットが改めて見直されたと見ている」
――海外の寿司ブームが本格的になり、寿司ロボットのパイオニアとして世界で展開すべき条件が整ったのではないか。
小根田 「売れるところに売っていくのがビジネスの基本。だが、海外展開はそう単純ではない。寿司に対する物珍しさから始まり、それが流行へとつながり、健康志向からシーフードそのものに熱い視線が集まる中で、既に単なるブームを越えたことは熟知している」
「ただ、美味しさまで到達しないと食文化としては定着しないのでないか。今、欧米などで販売されている持ち帰り寿司や、行列が絶えない回転寿司店にしても、値段が高い割には品質面で疑問を感じざるを得ない。我々が食べても美味しいといえないような寿司では、一時のブームはあったにしても、その国や地域の食文化として定着するのは難しいだろう」
――そうなれば、せっかくの寿司文化も廃れてしまう。
小根田 「我々は米飯の食文化を世界に広めたいと思っているが、何が何でも江戸前の握り寿司を普及させたいとは考えていない。米国のカリフォルニアロールがいい例であり、逆にカレーライスやラーメンなど、外国から来た食文化が日本独自の形となって進化した。当社では寿司バーガー、ライスピザなど、シャリ玉成形機による加工米飯以外のアイテムもあり、様々な食べ方を提案できるし、今後も積極的に開発する方針。その国や地域で受け入れられる食べ方で米飯の食文化が普及できればいいと思う」
――海外展開は慎重に手堅く進める。当面の重点地域は。
米国で結果を出す
小根田 「会社全体の売上げに占める海外での販売シェアを現状の15%から3年後に20%まで引き上げる。米国にスタッフ4人を置いている。まずは米国を軌道に乗せた上で、他地域への広がりを図る」
――米国を手始めにした理由は。
小根田 「米国は世界の情報発信基地であり、食文化においても米国から世界へと広がりゆく可能性を持っている。まずは米国に着手。一定の成果を出せれば、その後の展開がしやすいと読んだ」
――海外展開は息の長い仕事になる。
小根田 「寿司は美味しくて健康的な食品。だからこそ日本が世界に誇るべき食文化の一つであり、世界の各地で着目されている現実を、いわば当然だとも考えるが、それと同時に、世界は広い。気候などの地理的条件によって原料事情は異なってくる。食文化としての浸透状況を見据えながら、じっくり腰を据え、着実に取り組むつもりだ」
「日本で一時、大流行した包装寿司は米国の寿司マーケットで火が着く可能性がある。もちろん日本でも過去のものとは考えていない。シャリとネタの鮮度を保つ特殊フィルムの採用や、大ネタにも対応できる超小型包装寿司ロボットが新たに開発されたことで、日本の持ち帰り寿司も再び脚光を浴びると確信する」
――新型ロボットの完成が近いと聞く。
小根田 「ほとんど完成しているが、発表までは一切言えない。非上場企業だった頃は、半分でき上がった段階で“ついに完成”などとふれ込みながら営業に走ったものだが、株式上場してからはそうした行動はご法度。今は“乞うご期待”といえるのが精一杯だ」