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●中小問屋、単独経営に限界も
越川宏昭
(週刊冷食タイムス:09/08/04号)
業務用問屋再編の核心に迫る
健全経営でも大手傘下入り 「業務用食品卸大手のトーホーが北関東の昭和食品、カワサキを傘下に収める」という報道が6月11日食品業界を駆け巡った。トーホーは09年1月期の連結売上高が1700億円強だが、業務用食品卸売部門の売上高は1081億円、構成比62%であり、昭和食品100億円、カワサキ20億円、合わせて売上高120億円規模の取り込みは決して小さなものではない。突然の公表で2社と取り引きのある主力の食品メーカーは意表をつかれた格好である。トーホーはなぜ関東地区で中小卸の買収に動いたのか、昭和食品やカワサキはなぜトーホーの傘下入りをしたのか。そのバックグラウンドを分析してみよう
単独では描けぬ成長シナリオ これまで問屋の再編といえば古い話では菱食、三井食品、日本アクセスなど大手資本が同資本系列の問屋同士を再編するケースが多かった。しかも再編は事前に公表されており、関係者にさしたる動揺はなかった。 しかし、今回のような地域密着の中小問屋の大手傘下入りは例が少なく、しかも唐突で、取引先にとっては寝耳に水といったところである。 仕掛けたトーホーは09年1月期連結売上高が1716億円で前期比3.1%増であった。増収要因は昨年6月に傘下入りした群馬県の桂食品工業(群馬県前橋市)、11月加入のトーホー・仲間(沖縄県石垣市)等の売上高が加算されたことによる。今年1〜3月の第1四半期の業務用食品卸売事業の売上高でみると232億円、前年同期比0.3%減と苦戦している。 トーホーの業績推移をみても、近年収益力は低下傾向にある。5年前の2004年1月期に比べて09年1月期は売上高こそ138億円増えたものの経常利益は半分以下の14億円にとどまっている。 主戦場の九州で圧倒的な強みを見せてきた同社だが、九州市場は消費低迷状態にある。加えて日本経済は関東への一極集中を強めつつあり、同社としても関東地区に軸足を移すことは不可避である。東京進出10年を機に昨年、東京で初の展示商談会を開催したのも関東市場攻略の意欲の顕われといえよう。 大手食品問屋にとっては市販用、業務用にかかわらず経営規模が大きいほど関東市場を抜きにしては将来へ向けての成長シナリオを描けない。 トーホーにおける関東エリアの売上高は190億円、構成比で全社の一割強を占める。さらに関東エリアの事業展開を加速するためには地域でしっかり根付いた業務用問屋を傘下に収めるのがもっとも手っ取り早く、かつリスクの低い方法だ。 「近い将来、関東エリアの売上高を300億円にもっていき、社内構成比を高めたい」と上野裕一トーホー社長は意欲を示す。 6月にトーホー傘下に入った昭和食品は栃木県宇都宮市に本拠を置く年商100億円(20年5月期)の中堅問屋。昭和34年創立で今年50周年を迎える。高橋敏夫前社長は二代目ながら手堅い経営で内外の信頼も高かった。主力メーカーは味の素冷凍食品、日東ベスト、マルハニチロ食品等だが、営業利益も1億円強計上している。同社の経営内容には何ら不安は抱いていなかった。 同社は関東食糧(埼玉県桶川市、臼田満社長)が主宰する日本業務用食材流通グループに加盟していたが、これがトーホーへの傘下入りに歯止めをかける存在とはなっていない。さりとて「単独では150億円、200億円へと伸ばしていくための成長シナリオが描けなかったのではなかろうか」。高橋氏と同社の内情に詳しいメーカー幹部は健全経営の同社がトーホー傘下に加わった動機をこう分析する。 昨年6月に傘下入りした桂食品工業は群馬県に本拠を置き、埼玉、長野、栃木、新潟の関東周辺5県をカバー、ホテル・レストランなど約1500社の取引先をもっている。年商は23億円(19年9月期)。 カワサキは茨城県水戸市に本社を置く。トーホーに譲渡したホテル・レストラン、居酒屋向け業務用食品販売の年商は20億円。 トーホーは昨年8月に持株会社体制に移行して以来、事業の選択と集中を迅速に推進してきた。合わせて、久世や服部コーヒーフーズとの業務提携推進組織「トーク会」を昨年8月に解散している。その後のM&Aに備えて『身辺を整理した』ということであろうか。 北関東地区の業務用卸3社を傘下に収めたが、これに止まらず、さらに周辺地域への進出も取りざたされている。身軽になったトーホーが今後どういう動きをみせるのか目が離せない。 外食、産業給食、弁当・惣菜、学校給食、病院・老健施設などを主戦場とする業務用問屋は昨今の不況のあおりから売上げ、利益の確保に苦しんでいるのが実情。将来的にもどこまで回復できるのか、限られた需要を狙った問屋同士の競争も低価格化とともにますます激化する様相である。そんな中、非力な中小規模の問屋が同業者との同盟を強化したり大手資本の傘の下に入ろうとする動きは必然ともいえよう。
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