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今週の一本

●「冷食タイムス」40周年にあたり
山積みの課題を先送りせず  越川宏昭 (週刊冷食タイムス:09/10/06号)

成長への条件は高付加価値への挑戦
技術を次代への置き土産に

 『冷食タイムス』が創刊された昭和44年から30年間、冷凍食品は「成長産業」ともてはやされてきた。しかし、この10年間は産業としての成熟期を迎えたのに加え、残留農薬、偽装表示、天洋食品事件などの問題が相次ぎ、成長にブレーキがかかっている。さらに、世はまさに少子高齢化社会、消費低迷・低価格化と厳しい環境にある。冷凍食品産業はこの閉塞状態をどうやって打ち破ればいいのか。現状を次の成長への「踊り場」とするなら、次は上り階段への一歩にしなければならない。

創刊時の冷凍食品産業と発展の歴史

 弊社は昭和30年、水産専門紙として創業したが、冷凍食品産業の伸展に伴い、40年頃から紙面の片隅に「冷凍食品コーナー」を設け、関連記事の掲載を始めた。
 日本冷凍食品協会の沿革を辿れば明白だが、冷凍食品協会の前身は水産業界の有志が中心となって設立した「日本冷凍魚協会」であり、冷凍食品といえばすなわち冷凍魚を指す言葉であった。時代の変化とともに冷凍魚が調理冷凍食品へと広がり、昭和44年社団法人日本冷凍食品協会の設立につながるのである。
 昭和40年代は現在の姿に近い冷凍食品が世に広まり始めた時期であった。弊社でも『水産タイムス』の紙面の片隅を借りた「冷凍食品コーナー」から、新たに『冷食タイムス』(当初は日刊)を独立させたのは時宜を得たことといえよう。
 『冷食タイムス』の創刊当時を顧みると、わが国は昭和39年の東京オリンピックを境に力強い経済発展の道筋を歩んでいた。45年には大阪万博が開かれ、さらに経済は活性化し、国民の生活は急速に豊かになる。「消費は美徳」ともてはやされた時代でもある。
 冷凍食品産業も目覚ましい発展を遂げる。昭和44年の生産高は12万3499tであった。それから10年ごとの推移をみると、54年は52万t、なんと10年で4倍強に膨らんでいる。64年すなわち平成元年は94万6706tで44年比7.6倍。さらに平成11年は150万tで12倍、そして直近の20年は147万tである。
 30年間で生産高を12倍に伸ばしたものの、この10年間は横ばいだったことが分かる。ただ、これは国内生産量であり、この10年間で急増した海外生産量(20年は23万tの輸入)を加えれば平成10年比でも増加したことになる。
 こうして10年の区切りで冷凍食品産業の歩みをみると、激変する社会にあっても着実に成長してきたことが分かる。これは偏に業界の生産・流通・販売各方面のたゆまぬ努力の成果である。
 メーカーは生活者のライフスタイルや潜在的なニーズにきちんと対応して新商品を市場投入してきた。麺や米飯など新しいカテゴリーの登場、そして電子レンジの普及とそれに即応した商品開発が成長要因のひとつになったのは間違いない。
 ここ10年間は様々な試練の連続であった。とくに冷凍野菜の残留農薬問題、ミートホープ事件に代表される偽装表示問題、そして中国製冷凍餃子の天洋食品事件など。安全性の向上はもちろんだが、購買者の安心をどう担保するかが問われるようになった。
 安全性の向上に多くの経営資源を投入しても一度烙印された不信感を払拭するには時間がかかる。業界挙げて地道に訴えていかねばならない。業界はこの10年間の経験を経てそれを実感している。

踊り場の10年間からの脱皮を

 冷凍食品産業の行く末を考えると、克服すべき問題は山積みである。まずは安売り問題である。全品一律割引、それも四割引、五割引という常識を超えた安売りが横行しているのは由々しきことだ。一日も早くこういう状況を改善しなければならない。なによりも生活者がもつ価格に対する不信感を払拭すべき。売場を改革するのは容易なことではないが、メーカー共通の課題として取り組まなければならない。
 そのほかにも技術革新を伴った新商品の開発、収益構造の確立、NBとPBとの並存をどう構築していくか。さらには安全性の向上と安心、すなわち購買者の信頼をどう獲得するか。これらは現在業界に身を置く関係者に共通の課題である。
 本紙が行なった業界トップメーカーの座談会でも「(山積みの)課題の改善にメドをつけ、もっといい状態で次代に受け継ぎたい」という共通認識があった。
 少子高齢化が進む中、かつてのような10年で何倍もの市場成長など望むべくもないが、生活者が求める豊かで楽しい、健康的で便利な冷凍食品の開発を続ける限り、成長の可能性はあると信じたい。
 ただ、生活者のコスト意識が高まっている。値頃感をとらえつつ、一層の高付加価値を提供することが冷凍食品の生き残りを図る上で必須条件であろう。低価格化への潮流に押し流され、「安かろう悪かろう」に堕することは厳に戒めなければならない。
 メーカーは、コストを押し下げながら買い手にとっての価値を高めるという「バリュー・イノベーション」へのあくなき挑戦を続けてもらいたい。そのためには、共同生産や共同配送の拡大、資材調達の共同化を進めることでコスト削減を図ることは必要であろう。
 研究開発の一層の強化も望まれる。ブルドーザーなどで知られるコマツが赤字からV字回復した7年前、500億円の固定費を削減した時にも研究開発部門には手をつけなかった。その代わりに3〜5年は同業他社が追随できない先行技術、製品の開発を命じたという。その結果、ハイブリッドブルドーザーが誕生し、他社への優位性を維持しつつ業績を回復した。
 一企業にとどまらず、業界ぐるみで冷凍・解凍の技術開発を支援することも検討すべきだ。冷凍・解凍の技術はまだ未完成であり、これらの進歩を図るなど業界の利益に直結する研究を推進することは未来への投資である。これこそ次代への置き土産として今、手をつけておきたいことではなかろうか。
 生活者にとって豊かで健康的で楽しい食生活を実現するために、なくてはならない高付加価値商品を提供し続けること、これこそが食生活における冷凍食品のポジションを高める条件だといえよう。

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