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今週の一本

●現状打破 新たな一歩を踏み出せ  去石誠一 (週刊冷食タイムス:10/01/01号)

低価格競争の果てに未来なし
共通課題に挑戦せよ

中国での冷凍食品事業にも
大きな転換期が訪れている
(写真は上海の高層ビル)
安売りに特効薬なし

 産業としての冷凍食品は間違いなく疲弊している。苦労を重ねて開発した商品が恒常的な安売りに晒されて、利益なき繁栄を強いられている。果てしない価格競争の先に待ち受けているのは、「ただ安いだけの凍った食品」という評価だろう。
 適正な利潤を確保した上での特売ならば、再生産可能な産業として将来も生き残れる。しかし今の業界はそんな理想的な構造にはなっていない。依然として企業の「体力勝負」であり、例え勝ち残ったとしても「持続可能な産業」としての発展は望めない状態だ。
 業界に関係する人達は、誰もが今の産業の軋みに気付き、言葉で正論を説いても、事業としての行動がついてこない。行き過ぎた安売りの現実を認知しながらも、「消費者の声だから」と大義名分に逃げ込むばかり。問題を先送りしている。
 もちろん、全産業的な低価格志向は存在する。支払う金額が少なければ消費者は単純に喜ぶ。しかしモノが「安く売られる」という背景には、「不景気で所得が上がらない」という現実が付きまとう。しかも恒常的な安売りには後がなく、デフレスパイラルの深度は増すばかり。
 (社)日本冷凍食品協会の浦野光人会長の発言を借りれば「冷凍食品産業は安売りでも利益が確保できる仕組みができていない」。加えて、日本市場に参入してきた外資企業が驚くほど「利益の薄い産業」という認識が定着して久しい。
 安売り問題にすぐ効く「特効薬」はないが、業界人一人ひとり、問題意識を持ちながら、例えば企業間の枠を超えた技術開発として「電子レンジに代わる新調理法の研究」や「冷凍・解凍の技術開発」などを業界テーマに掲げて協力するのもひとつの方法だ。
 リーダーシップをとる「業界の救世主」を待ちわびるだけでは現状を打破できない。自らが動き、解決への「チャレンジ」を続ける努力が必要。この努力を次代を担う人達に引継ぎ続ければ、そこから明るい展望は必ず生まれてくる。

海外事業戦略見直し
 
 2008年1月下旬に発覚した天洋食品事件は冷凍食品業界始まって以来の大きな爪跡を残した。そこで冷凍食品の「信頼回復」に向けて、製販三層あげた取り組みが2年間にわたり繰り広げられた。業界あげての必死の努力の結果、ようやく「07年ベースまでほぼ回復した」といわれるが、課題も多い。
 1990年代半ば、タイに続いて競い合うように中国に生産拠点を設けた冷凍食品業界は、02年の冷凍ほうれん草残留農薬問題以降、様々な食品関連事件の発生で「安全・安心」の確保を迫られ、対応に追われた。中国での生産も従前のように「手づくり」と「安さ」という付加価値だけで、日本市場向けに供給し続けるのは苦しい。

◇    ◇    ◇

 日本で誕生した飲料や調味料、和菓子が、欧米諸国をはじめとする各国で販売されている例は決して少なくはない。「アサヒビール」、「味の素」などブランドの知名度も高い。しかし、残念なことに冷凍食品は出遅れている。海外のスーパーの売場に並んでいる日本の冷凍食品も、メジャーと言える存在ではない。
 冷凍食品業界が開拓してきた台湾やタイ、中国も「原料産地」と「生産拠点」を求めた結果であり、現地生産による対日輸出が主目的。進出当初から「現地販売」に動いた企業は皆無。そんな折り、右肩上がりの成長が止まった日本市場で、モノ余り現象が発生。工場を安定して稼働させるためにも、現地でつくり、現地で販売せよ、という方向に転換した。
 そこで注目されるのが、パナソニックなどが展開する「ボリュームゾーン戦略」だ。これまでは、日系企業の品質の高さを武器に、限られたマーケットをターゲットにしてきたが、現地の値頃感に合わせて最も層の厚い価格ゾーンに降りていくという戦略。中国やインドなど新興国を対象に本格展開が着々と進んでいる。
 この「ボリュームゾーン戦略」、本来は冷凍食品が得意とするマーケティング手法のはずだ。現地での内販にもトライしつつあるが、まだまだ限定的な販売に止まっている。
 日本企業が世界で勝負するための障壁のひとつに「オーバースペック」という問題がある。欧米諸国と比較して水準が高すぎるといわれるのが日本規格。原材料の規格選定から、繰り返し行なわれる品質検査など、時間と費用の掛け方は「さすがは日本」と評価される反面、「本当にそこまでやる必要があるの」という懐疑論もある。
 世界で通用する冷凍食品メーカーに成長するには、ボリュームゾーンに斬り込まなければいけないが、現状の生産・販売体制では無理だろう。
 そこで考えられるのが、成功を収めている現地企業とのアライアンス(提携)。日本企業が持つレベルの高い技術力や開発力、品質管理力は現地企業にとって魅力的に映るだろうし、日本側からみれば市場に根ざした現地企業の配荷力、営業力は真似できない。もはや一から事業を構築する時間的な余裕は残されていない。先行する現地企業とのアライアンスが、キーポイントになるだろう。

◇       ◇

 もちろん全ての企業が世界で挑戦できる訳ではない。海外工場では日本向けに徹し、現地の内販事業は限定した範囲内に収めるという選択もある。また日本国内で技術力を磨き続け、他社に負けない商品開発に徹するのも方策のひとつ。日々変化する需要にすばやく対処するには海外工場は不向き。国内、もしくは世界各国から原材料が調達できる日本においては、画期的な生産性の向上や、効率的な生産の実施により、海外にひけをとらないコスト競争力を持つことも可能だ。
 いずれにしろ現状を打破し、新たな一歩を踏み出さなければ冷凍食品産業の明るい未来は望めない。

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