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今週の一本

●食材費3割の基本を忘れずに
低価格を追わず、価値を追え  越川宏昭 (週刊冷食タイムス:10/03/09号)

将来に禍根を残すな

 「きわむ元気塾」を主宰する横川竟(きわむ)氏(元すかいらーく)は外食市場が縮小傾向にあることに関して、「レストラン業がお客様においしさ、楽しさを提供するという原点を見失い、株価の維持、利益の追求、安売り指向に走ったため、店の味やサービスが低下したのが一因」と分析する。冷凍食品はまだそこまでいっていないが、安売り指向に走る余り、おいしさ、楽しさの提供という視点が少しずれてきた。早く路線修正をしないと、消費者にソッポを向かれる恐れがある。

 現在のような安売り一辺倒の売り方を続けていけば、早晩、材料を落とさざるを得なくなるのではないか。
 餃子の満洲は埼玉県を中心に約50店舗を展開する人気チェーンだが、「3割おいしい」をキャッチフレーズにして躍進中だ。外食店は通常、食材費比率30%が通り相場だが、同社は安さを追求しつつも、「食材比率3割」の原則を堅持している。
 さて、冷凍食品の場合、食材費3割とすると、定価300円の商品の食材費は90円。しかし、実勢販売価格は150円内外に落ちるから、その3割なら食材費は45円となる。その程度の食材費で作る商品でお客さんに満足を与えられるのだろうか。
 もし消費者が定価300円である商品を買ったとすれば食材費45円は15%に過ぎないわけで、そんな商品を買わされた消費者こそ可哀想である。
 
後発の物まね、安値販売はマナー違反

 価格の正常化を図り、もっと食材に金をかけるべきである。いかに調理技術が勝っていても粗末な食材料からおいしい商品は作れない。
 本来あるべき姿と逆行しているのがメーカー同士の足の引っ張り合いである。他社の人気商品を安く作って安く売るという下くぐりの事例を最近また頻繁に見るようになった。
 これでは市場のふくらみは期待できず、誰にとってもいい結果を生まない。業界はやせ細っていくばかりである。
 追随するメーカーはそんな暇と金があったら、もっといいものを作って高く売ってみせてほしい。それが後発メーカーの最低限のマナーである。
 リーディングメーカー(トップ集団)がモラルに欠けた行動をとると将来に禍根を残す。
 30年も前の話で恐縮だが、トップブランドのX社が潤沢な資金にモノを言わせて量販店に激しい安売り攻勢を仕掛けたことがある。
 筆者は競合他メーカーが一斉にあげるブーイングに背を押され、そのメーカーの責任者Y氏に事の真偽を質した。Y氏は「そんなことをやっていないし、安売りをやる原資などない」とキッパリ否定された。
 それ以上の追求もできず、そのときは事態を見守る結果となった。しかし、その後の業界の情勢は周知の通りである。前述の事例がすべての要因とは言えないが、安売りがどんどんエスカレートしていき、いまやほとんどの売場で4割、5割引が当たり前となった。
 これには後日談があって、後年、X社のOBから事の真相を聞いた。やはり安売りを仕掛けたのはY氏だった。当時、生産部門の反対を押し切り、工場が生み出した利益をすべて安売りの原資に向けたのだという。
 なぜ、もっと活きた金の使い方をしなかったのか。売るために手段を選ばなかった禍根がいまだに尾を引いている。
 冒頭の外食市場の縮小ではないが、冷凍食品産業ももっと消費者の満足度を高める努力をしないとソッポを向かれてしまう。
 よくないものを安く売るのではなく、いいものをそれなりの値段で売ることでお客様に喜んでいただく。価格を追わず価値を追うべきだ。
 近江商人の家訓に「三方良し」があるそうだ。作る人、売る人、買う人の三者が皆幸福になるのが本当の商売であるという教えである。理想論かも知れないが、冷凍食品業界の「三方良し」の実現に向けて努力をしようではないか。

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