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今週の一本

●東京大学・ニチモウなどが養ギン用の浮沈式イケス開発  井出万寿男 (週刊水産タイムス:14/10/06号)

端境期も出荷、東北復興の一助に

 海水温の関係から出荷時期が7月中に限られていた養殖ギンザケで、生鮮サケの出荷がない端境期の8月中旬にも出荷することができる浮沈式イケスが東京大学大学院農学生命科学研究科の潮秀樹教授らの研究グループによって開発された。イケスを低水温域に沈下させるシステム。このイケスが開発されたことで、東北地方の産業復興の一助になると期待されている。研究にあたってはニチモウや子会社のニチモウマリカルチャーもグループの一員となっている。

 このイケスが活用されれば、生鮮サケの出荷がない端境期にも、安全・安心な国産の生鮮サケ類を消費者に届けることが可能になる。温暖化による海水温上昇が問題となっている中で、ギンザケ以外の魚類養殖にもシステム適用が期待される。

 夏場は海水温が上昇し、8月にはギンザケが生息可能な水温を超えるため、現状の養殖ギンザケの出荷時期は4月から7月中に限られており、秋サケ(シロサケ)の出荷が始まる8月下旬までの約1カ月は端境期となっている。

 養殖魚を飼育したままイケスを沈下させたり、浮上させたりする浮沈式イケスは、施設費や運用費が非常に高価なため、クロマグロなどには使われてきたが、ギンザケのような比較的安価な魚種は対象とされてこなかった。

 通常のイケスが存在する水深では、ギンザケが正常に生息できる上限温度の21度を8月上旬には超過するため、ギンザケの出荷がこの時期までに集中し、市場における魚価の低下にもつながっていた。今回開発した浮沈式イケスを用いて海面からイケス上部まで約10m程度の深さにイケスを沈下させると、イケス内の水温が、ギンザケが正常な生息が可能な温度まで低下して養殖期間を延長できる。

 イケスの浮沈は通常、イケスに取り付けられているポリエチレンパイプやタンク内の水と空気を置換することで行われ、10m規模のイケスであれば比較的容易に浮沈できるが、大型化すると水と空気の置換が不十分となり、円滑に浮沈させるのが難しい。

 米国ではスパー(鉄製のパイプ)を用いて、水と空気の置換により安定的に浮沈させる技術が開発されたが、高価なためあまり普及していない。今回の研究では、ポリエチレンパイプ内部にホースを配し、ホース内部の給排気によってイケスを円滑に浮沈できる技術を開発したもの。浮沈式イケスは、水温調節だけでなく、台風通過による荒天、高濁度水の流入、有害藻類の大量発生などの一次的な脅威からの回避にも有効と期待されている。

 この研究は文部科学省海洋生態系研究開発拠点機能形成事業東北マリンサイエンス拠点形成事業(新たな産業の創成につながる技術開発)「東北サケマス類養殖事業イノベーション」共同グループによる。

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