●「食のデジタル化」元年オールジャパンでコロナ禍からのV字回復へ、ライバルは海外企業 2021年は日本国内のデジタル化の動きが本格化しそうだ。国は「デジタル庁」を秋に立ち上げて行政サービスのデジタル化に取り組むほか、民間のデジタル投資を税優遇措置や金融支援を通じて後押しする戦略を描く。コロナショックからのV字回復を図るとともに、海外に比べて低いとされる国内産業の労働生産性を引き上げるねらいがある。 AI活用した原料検査装置開発
それまでは変色などを目視検査していたが、AI原料検査装置の導入後は作業負担の軽減、作業効率の向上に貢献している。 キユーピーは現在40件以上のAIプロジェクトを進めているが、原料検査は開発の一丁目一番地にある。開発を主導する生産本部未来技術推進担当の荻野武テクニカル・フェローは「創始者の中島董一郎が残した言葉に『良い商品は良い原料からしか生まれない』という言葉があり、この理念に基づく課題を重視した」と語る。原料の安全安心は消費者の絶対的な要求であり、取引先や協力会社、同業他社も抱える共通課題と位置付けた。 荻野氏によれば「食品メーカーは営業キャッシュフローの9割を設備投資に回すためキャッシュが残らず、再投資で利益を上げるのが難しい」という。 そこで開発に際しては低価格であることを最も重要視し、欧州製の1/10以下をめざした。そのうえで世界一の性能を実現することや、大手だけでなく中小の原料・食品メーカーが使いやすいよう、専門のエンジニアがいなくても操作できることをゴールに設定した。 発想の逆転で高精度を実現 こだわったのは検査方式。これまでの検査装置は原料の色差などを画像処理し、不良品のパターンを学習させる手法が一般的だったが、変形や変色、きょう雑物の不良パターンが無限にあるため高い精度を出すのが困難だった。 国際競争力向上に貢献
これまでは各メーカーがAI企業やシステムベンダーと個別に組んで開発を進めてきたが、荻野氏は「食品メーカー5万社がバラバラに進めると約250万人のエンジニアが必要になる。これでは人口の多い外国には勝てない。原料検査などの各分野で国内企業1社が代表してソリューションモデルを作り、皆で共有すれば50人で済む」と語り、日本全体で開発の固定費を下げることで国際競争力を高める道筋を描く。 AI原料検査装置は食品業界の実装化に向け、今後も段階的な研究開発が進む。農林水産省の「イノベーション創出強化研究推進事業」に昨年採択され、新たに原料内部の異物検出や外観検査の多品種対応、高速処理などの技術開発に取り組む。 研究事業ではAIアルゴリズムをはじめとするサイバー技術や、照明技術などのフィジカル技術を改良することで40品種以上に対応するほか、目視や画像認識では困難とされる、原料内部にまで入り込んだ虫などの異物を電磁波センシングで検出することをめざす。AIアルゴリズムを改良し、検査処理速度の高速化と高処理に対応する搬送機構も開発する。 電磁波計測の技術研究は国立研究開発法人産業技術総合研究所、AIアルゴリズムの改良は(株)ブレインパッド(東京都港区)と共同で進める。委託研究期間の3年間でプロトタイプの開発から生産現場への実装、同業他社等へ低価格で提供するまでをめざす。 ◇ ◇ 荻野武テクニカル・フェローのプロフィール 日立製作所中央研究所で半導体、撮像素子、アナログ・デジタル信号処理の研究に従事。工場・事業部門では開発、設計、SE、商品企画等を担当。米国シリコンバレーで日立初のインターネットコマース、日立初のクラウドサービス型サーベイランス事業、DVDカメラ事業等を立ち上げ、帰国後は本社で脳科学等の新規事業、新興国都市開発等に携わる。2016年4月キユーピーへ。未来技術推進担当としてAI等各種次世代・未来技術の実活用に取り組む。MOT/MBA、日本イノベーション融合学会専務理事。 |
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