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今週の一本

●水・福・畜連携でつむぐ持続可能な地域活性化  後藤美緒 (週刊水産タイムス:24/01/01号)

捨てられる海藻を生かし「鎌倉海藻ポーク」に

 神奈川・鎌倉を舞台に、水産・福祉・畜産連携の取り組みが進んでいる。海岸に大量に打ち上げられる海藻を福祉施設や高齢者施設の利用者が回収して粉末に加工、畜産事業者がそれを配合した飼料を使って豚を育て、柔らかく旨みたっぷりの「鎌倉海藻ポーク」というブランド豚を作り上げた。

鎌倉の海岸で海藻を拾った
施設の利用者と職員、矢野さん
この日の海藻は少なめ。
時下の後などは大量に流れ着く。
海岸に流れ着いた海藻は汚れを落として施設で乾燥させる。
足踏みやミキサーなどで粉砕し、紅茶葉ほどに細かくする
事業のキーパーソンで料理家の
矢野さん
臼井農産の臼井社長。
海藻飼料を買い取り豚の飼料にする。

きっかけは「もったいない」

 相模湾に面する鎌倉では、小型定置網や刺網、シラス船曳網、覗突(みづき)、ワカメ養殖などの沿岸漁業を中心に漁業が営まれている。
 鎌倉の海岸には海が時化た翌日に海藻が大量に打ち上げられ、その量は年間約3100t。放置すると悪臭や虫が湧くことから、速やかに処理をすることが課題となっていた。
 これを背景に、海藻の活用を提案したのが、水福畜連携事業のキーパーソンとなる料理家の矢野ふき子さん(鎌倉市在住)。コストをかけて捨てられる海藻を見て「もったいない」と思ったことがきっかけだ。料理家としての知識や人脈から、豚の飼料に活用することを考案した。
 矢野さんは自ら乾燥させて粉末化した海藻を持って、神奈川県畜産技術センターに相談。話を聞いた担当者から神奈川県産の飼料で豚を育てたいという思いを持つ臼井農産(臼井欽一社長)を紹介され、臼井社長からは即答で協力の回答をもらったという。
 鎌倉漁協の食品アドバイザーも務めている矢野さんは、鎌倉で水揚げされたカタクチイワシを使った「鎌倉アンチョビ」や、生シラスを使った「しらすの沖漬け」を開発し、漁業者からの信頼が厚い。
 海岸に流れ着く海藻にも漁業権が設定されている。矢野さんは「通常は海藻を持ち帰ることはできない。回収できるのは、漁業者の理解と協力があるから」と話す。
 また、当初は施設の利用者のためになると思ってスタートしたが、今では「彼らなくしては成り立たない取り組み」(矢野さん)になっている。
 海藻を拾うのは、市内にある障がい者施設と高齢者施設の利用者で、現在8グループが参加している。拾う際にノルマはなく、自由に取り組むのがポイント。課せられるとプレッシャーに感じる人もいるからだ。
 拾い集めた海藻は水ですすいで砂や汚れを落とし、各施設へ持ち帰る。施設では海藻を天日干しし、その後さらに乾燥機にかけてパリパリに仕上げる。
 それをハサミで小さく切り、細かくするために布袋へ入れて足踏みして海藻を砕く。袋から出してさらに細かくするためにミキサーにかけ、最後に100gずつ計量して袋詰めする。
 ここまでが施設の利用者によって行われる。海藻飼料は臼井農産が買い取り、養豚場で豚の飼料になる。
 大切なのは、自分で作業して作ったものが買い取られるということ。施設の利用者にとって“誰かの役に立っている”という自負につながることが、福祉との連携では重要となる。

「水産多面的機能発揮対策」を活用

 これらの活動は、矢野さんが中心となって2019年に立ち上げた「鎌倉漁業協同組合と海のSDGsを実行する会」が行っている。鎌倉海藻ポークの活動に付随し、磯焼け対策にも取り組んでいる。
 活動には水産庁の「水産多面的機能発揮対策」を活用。漁業者らが行う水産業・漁村の持つ多面的機能を発揮させる活動に対し、交付金を支給する制度だ。
 担当する漁港漁場整備部計画課の中村隆課長は「鎌倉海藻ポークのような水福連携の取り組みはまだ少なく、全国の先駆けとなる事例。多面的な活動が福祉や畜産と連携し、地域の活性化につながっている。今後、このような取り組みが全国に広がってほしい」と期待する。

漁業とともに続いていく活動に

 「もったいない」という視点が鎌倉の多様な人々をつなぎ、水産と福祉、畜産の垣根を越えた取り組みは持続可能な地域づくりへ発展している。矢野さんは「これからも持続していく鎌倉の漁業と一緒に、この取り組みもずっと続いていく活動にしたい」と先を見つめている。

良品計画の飲食店で提供されている
ポークジンジャー
真っ白な脂が特長の「鎌倉海藻ポーク」
地元飲食店や学校給食にも

 鎌倉海藻ポークは臭みのない真っ白な脂が特長。通常の豚肉の脂は42℃で溶けるが、神奈川県畜産技術センターの検査によると鎌倉海藻ポークは36〜38℃と溶ける温度が低く、口溶けが良い。しかも、旨み成分のオレイン酸が多く含まれていることがわかっている。
 売り先は個人向けと、鎌倉駅前のホテルメトロポリタン鎌倉内にある「Cafè&Meal MUJI」((株)良品計画が展開)にも、同店がオープンした2020年から納入。鎌倉海藻ポークを使用した「ポークジンジャー」「キーマカレー」の2品が提供され、ここだけでしか食べられない人気メニューとなっている。
 2022年からは鎌倉市内の学校給食で採用が始まり、今年はすべての小中学校の給食で鎌倉海藻ポークが振る舞われるまでになった。

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