この人に聞きたい:第170回
(週刊水産タイムス:08/12/01号)
川崎魚市場の吸収合併で
横浜魚類 石井良輔社長に聞く
横浜魚類 社長 石井良輔氏
集荷力・販売力・情報力でスケールメリットを発現
横浜魚類が持分法適用会社だった川崎魚市場(出資比率50%)を子会社化し、1日付で吸収合併した。川崎魚市場は横浜魚類川崎北部支社となり、新たなスタートを切る。吸収合併によるスケールメリットと効率経営の実現が最大の狙いだが、果たして勝算はあるのか。気になる合併効果と当面の方針を石井良輔社長に聞いた。
――なぜ、川崎魚市場を子会社にせず、合併という道を選択したか。
石井良輔社長 たとえ子会社にしたとしても、2つの会社が同時運営するとなれば、それなりの方針も違えば、細かいところではコンピューターの違いなども生じ、経費の抜本的な削減ができない。統合メリットにも限界がある。
今のところは両社とも何とか食べていけるが、これからも安定収益を続けていけるかどうかとなると非常に厳しい面がある。ここは先のことを考え、会社を大きくし、共通の荷主、販売先、物流、情報を一つにして、取引先の一元管理も含めて、規模のメリットを出していくことにした。
横浜市場(本場・南部)と川崎市場にまたがり、“神奈川連合”のような形でいろいろなことができるのではないか。互いの長所を融合して、卸売業務の質の向上を図る。それが合併を決めた一番の目的といえる。
――数値目標は決めたか。
石井 現在精査しているところで、第3四半期の決算あたりで公表できると思う。重複している部分が削られるのは容易につかめるが、統合によるメリットはすぐに数字で出せるものではない。
――そうは言っても、社長の腹づもりがあると思うが。
石井 2社の売上高を足すという単純な話ではなくなる。もちろん売上げも大切だが、それ以上に中身、つまり利益が大切。俗に言う業者間取引の類いを考慮せず、実際の市場規模というものを改めて見直した上で、新たな目標を設定したい。
伸びる分野もあるだろう、削られる部分もある。そうした状況の中で、中身の伴わない売上げだけを追い求めてもある意味ナンセンス。いかに卸としての本業に肉付けをしていくかが最大のポイントだ。
――長所の融合が大切だと思うが、川崎はどのあたりが強いのか。
石井 どちらかといえば、川崎は業務筋に強みを持っている。商圏的に横浜本場と南部は、横浜市の青葉区、都筑区といった北西部は弱い。川崎はそういう地域をカバーしている上、東京の世田谷、多摩、調布、稲城、町田、八王子にも商圏を広げている。そういった地域に統合のメリットを生かしていければと考えている。横浜市、川崎市とも人口増加率が高い西部が伸びている。特に量販店への対応を考えた時に、横浜本場と南部だけではなく、川崎の新拠点が大きく生かされてくるのではないかと考えている。
実際には、神奈川県といっても築地経由の商品が多い。築地から荷物をもらうということではなく、便宜的に築地に一旦集荷し、そこから神奈川、東京の西部に運ぶという方法をとっているケースがかなりある。距離的にも時間的にもロスが生じ、荷主としても余計な経費がかかる。横浜本場、南部市場に川崎北部の新拠点がつながることで、新たな物流体制の構築につながることは大きなメリットになるだろう。
――会社としては横浜本場を中心とするのか。
石井 どちらかと言えば、川崎はマグロが強く、なぜか横浜はマグロに弱い。数量がまとまれば、この3拠点のうちのいずれかが中心市場の役割を担っていくことになり、どの市場で何が一番売れているかによって、商材別に中心市場が設定されていけばいい。
――川崎魚市場という会社名がなくなるわけだが、社員のモチベーションに変化はないか。
石井 既に全員面接をして、いろいろな話をしてきたが、これは今後も続けていく。待遇面では横浜魚類をベースになるが、もともと大きな差があるわけではなかったので問題ないのではないか。ただ、これまで“川崎魚市場”という名で生きてきたベテラン社員にとっては、一抹のさみしさを感じたとしてもそれは無理からぬ話。会社名が変わるという事実は重い。
ただ、実質的にこれまで東都水産、横浜魚類の各50%出資で運営されてきたことを考えれば、横浜魚類川崎北部支社として新たなスタートを切る今回の合併が、逆に自立心を高める機会にもなればと期待している。これまでの東都水産との取り引きも何ら変わりはない。
川崎北部市場の仲卸さんにも「集荷の心配はないですよ」と十分に説明をした。これからは東都水産の冠がなくなり、横浜魚類川崎北部支社としてこれまで以上にお付き合いをしていただくわけで、この点はよく理解していただけたと思っている。
――今後はスケールメリットを発揮していくことが大切だ。
石井 集荷においても販売面でも、より有利になるのは確か。100tの扱いより200tのほうが商売の上では有利に動く。幸い、横浜市、川崎市とも人口は増えて続けている。870万人といわれる神奈川県民の胃袋を支える存在として今後も努力を重ねていく。