この人に聞きたい:第179回
(週刊水産タイムス:09/02/16号)
築地トップインタビュー
築地魚市場社長 鈴木敬一氏
本業での利益体質を確立
――1月の業績はまずまずだったようだが。
鈴木 でも問題はある。これまで本業である魚介類の販売と、金融投資で利益を出してきた。この不況で金融資産の評価損が出た。社長になる以前から、金融投資で利益を出す体質があった。商売で赤字でも金融で利益が出たこともある。平成16年に社長就任し、まず取り組んだのが金融依存型からの脱却。3カ年計画で体質改善し、本業で利益を出し、金融投資の比率を下げていこうとした。しかし、3〜4合目の過渡期にリーマンショックが襲い、金融資産で損失。本業の魚介類販売も前半は良かったが、後半は悪く、その状態が今も続いている。
――振り返ればこの10年は営業赤字続きだった。
鈴木 社長就任から2年目で黒字になった。これからは営業利益がしっかりと出る体質に「CHANGE」することが必要。金融投資の問題は一過性のこととして、体質を変化・加速させる丁度良い機会だと前向きに捉えたい。
――どこも売上げを伸ばすのに苦労している。
鈴木 世の中全体で魚介類消費が低迷し、市場経由率が低迷している。そんな中で当社の売上高が伸びているのは、企業としての基本は改善されているからだと受け止めたい。
――収益改善への一手は。
鈴木 3カ年計画で不良債権の回収と発生の阻止、縮小を徹底させた。かつては他社が売らないような相手に売って「駆け込み寺」と言われたものだが、今は一番の優良会社になったと思っている。
――営業面の強化について。
鈴木 3つの柱がある。1つは量的な販売面で量販店、専門店の強化、2つ目は加工業、3つ目に海外との取引の拡充。今や魚の6〜7割は量販店で売られている。口銭が薄いと言われても無視はできない。仲卸との共同対応も行い、量販店への販売を強化する。
――加工事業の計画は。
鈴木 核家族化など様々な要因があり、絶対必要になっている。加工会社をつくり、他社とも連携を取る。海外事業は昨年、中国・上海に「東市築地水産貿易(上海)有限公司」を設立した。海外の展開といっても輸入ではなく輸出することも必要であり、これから販売先を増やす。
――年金制度で先駆的な取り組みをしている。
鈴木 他社に先駆け、来年度から年金制度を加入者の運用実績に応じて年金の受給額が変わる確定拠出年金(日本版401K)にする。今までは確定給付き年金制度で、マイナスが出ると会社が補填した。昨年は1億円ほど補填した。
――市場の中抜きが話題となっているが。
鈴木 全流通量の1〜2割が産地からの直送型になったら評価するが、現実は難しい。産地直送は、マスコミ向けのアピール材料とはなるが、果たして効率はどうか。しかも国が補助金を出すのは疑問を感じる。
――市場の統合や移転問題については。
鈴木 再編と効率化を図ることが必要。市場の数についても考える必要がある。それぞれ個性ある機能にし、同じ働きをする必要はない。移転問題の選択肢は、この場所で続けるか、豊洲か、第3の場所かだ。今の場所では土地代が高く、ほかにも問題がある。第3の場所もないと都は言う。だから豊洲しかない。1〜2年が遅れたとしても、しっかりと調査してほしい。
――今後の水産業界をどう見る。
鈴木 今は食料が豊富だが、世界中で魚介類の需要が拡大し、これからは売り手市場になる。その日が間近だと思っている。