この人に聞きたい:第219回
(週刊水産タイムス:09/11/30号)
卸売市場再生の決め手は?
株式会社仙台水産 代表取締役会長(CEO) 島貫文好氏
「卸会社にマーケティング発想を」
昨年来、水産会社や卸会社の多くがマグロを中心に高値在庫品の処分に苦しみ、今期まで引きずっている。わけても市場卸会社の業績は在庫処分損に加え数量減、魚価安のダブルパンチを受け苦戦の企業が多い。そんな中ひとり気を吐いているのが仙台水産。同社はリーマンショックに先駆けること2カ月、昨年夏の段階で異変を察知し、在庫の絞り込みを進め、リーマンショック後の痛手を最小限に抑えた。さらに今期も順調に推移し、上期の段階では若干の減収ながらも増益を確保している。同社の島貫文好会長(CEO)に好業績の理由、そして業界共通の課題である市場再生策を聞いた。
――昨年のリーマンショック後に対症療法を講じたところが多いのに何故、夏の段階で手が打てたのか。
島貫 有り体にいえば第六感の所産ですが、そのほかにも当社が長年実施している消費者モニターの調査が地殻変動の到来を告げていたのです。
――第六感とデータですか。
島貫 言うならば長年の経験が知らせてくれる予感ですかね。大体、オリンピックの年は食糧相場が上がり、過ぎれば4年に一回の不況に見舞われることが多いのです。「買い負け」騒動を引き起こし、北京五輪の空騒ぎはきわめてバブリーであり、これは反動に対する注意が必要だと思っていました。それと消費者モニターの調査で不況の実態がまざまざとみえた。高値敬遠、節約志向、貯蓄志向が強まっている。そして企業の時短や業績不振などで生活者の可処分所得が減少し買い控えが始まっていることが分かったのです。それが7月、8月の段階で在庫を減らすように指示・徹底した理由です。
――市場卸が消費者モニターとは珍しい。
島貫 調査データは事業を進める上での指針になります。かねてから業界でもマーケティングの発想が必要だというのが持論です。しかも東京ではない、あくまで仙台、宮城県を中心にしたエリアマーケティングです。「我々のお客さまは誰か」という点ですが、それは「30〜40歳代、子育て中の女性」と想定したうえで、お客さまの嗜好や生活習慣、たとえばお盆や年末・正月にどういう生活、食事をしようとしているのかをモニター調査により詳細に調査し、その集計データ、つまり先駆情報に基づいて適切な営業政策を講じるのです。モニター調査は20年の歴史があります。調査データは多岐にわたり、膨大な蓄積になっていて、仕入れ・営業面で大いに役立っています。
「お客さまは誰か」をもっと明確に
――市場卸がマーケティング発想を持つこと自体異色だ。
島貫 消費者の変化をいち早く把握して営業活動に迅速に反映する、このクィックレスポンスが当社の身上です。たとえば12月の商戦をどう戦うかは10月段階にはでき上がっており、各営業に徹底し、得意先との商談に活かしています。
――ただ「売上げ頑張れ」でなく、戦うためのツールを与えるのですね。
島貫 12月は週ごとに販促テーマを提示しています。第一週は「冬の味覚ホットメニュー」。12月は食費が年間でトップの月ですが、今年は「節約志向が高まるので売り方に工夫を」と提案。第二週は「酒は飲んでものまれない」で家族の食事時間にバラツキがあり、個食用の鍋が伸びるといった感じです。
――リテールサポート(小売支援)の実践ですね。
島貫 そうです。だからモニターの選定に当たっては有力顧客であるスーパーの店舗周辺に在住する人の層を増やしています。いい店づくりのために生の声を集めるのです。小売支援のために仲卸と一体となり、当社・関係会社から販促用員を派遣したりすることもあります。対面販売をすれば固定客をつなぎとめられるので店からも喜んでもらえるのですが、当社にとってもメリットがないとやりがいがない。「お互いギブアンドテイクですよ」と相手にも求めています。
――安全安心の要請も強いのでは。
島貫 15年前から食品安全対策室を設置して細菌検査、添加物検査、表示チェックから賞味期限管理、鮮度検査、粗脂肪率の測定など科学的な検査・分析を行っております。全役職員の食品に対する教育、意識改革、実践活動に大いに役立っています。中小の出荷者への相談にも応じています。2名が専従していますが彼らの判断によっては商材の上場廃止や撤去に到る権限を行使できます。この点、組織的には社長より強い権限をもっているのです。
IT技術を最大限に活用
目標はスピード、正確、効率
――全国的に水産市場卸の経営が思わしくない。市場再生への方策はあるのか。
島貫 大きく捉えれば資源管理の徹底と水産物の消費拡大の両面が重要です。道のりは遠いけれど一番大事なことです。市場法の規制や消費者の魚離れ、場外流通の増加により市場経由率が低下、魚価の低迷など卸売市場には問題が山積みです。ただ、卸会社の経営不振の要因を外部に転嫁してばかりいても仕方がない。自助努力での解決が基本です。サプライチェーンの見直し構築、ローコストオペレーションの確立で市場再生が可能だと考えます。今の卸売市場流通にはいたる所に高コストが温存されていると思います。
――分かっているけどやれていないのが大多数ではないのか。
島貫 そういう意味では常に人材育成と改革・改善です。変化する社会に対し、マネジメントも進化させなければなりません。当社では音声入力システムの開発やデジタルペンの導入などつねに時代の最先端を歩み、IT技術を最大限に活用しています。スピード、正確、効率を目標にして挑戦しています。また、日次決算システムでは毎日午後2時半までに当日の業績が出ます。刻々と出る営業データを確認しながら早く手を打ちます。クィックレスポンスです。
――昨年来、今期の業績は。
島貫 当社は年商500億円強で、税引前利益1%、5億円を目標にしています。現在は目標ラインに近い線で推移しています。とくに在庫管理はシビアに行っており、日ごろから社員にはロス撲滅を言い続けており、5億円以下の在庫水準をつねに心がけています。大都市圏の卸各社に比べると4分の1の売上げ規模ですが地域に貢献し、「小さくても光る会社にしよう」を合言葉に全社一丸で頑張っています。