この人に聞きたい:第222回
(週刊水産タイムス:10/01/01号)
行き詰ったら原点に戻れ
市場のあり方研究会 委員長 高木勇樹氏
昨年、全水卸が設置した「卸売市場のあり方研究会」の高木勇樹委員長に、同研究会が提言する理想の卸売市場の姿と、卸・仲卸が今後の発展に向けするべきことは何かなどについてインタビューした。
――現状の水産卸売市場の問題点は。
高木 水産流通における6段階の機能が分断され、上手く機能していないのが現状。卸売市場法の規制が無くなったと言いながら、実際はまだ様々な規制が残っている。必要な規制もあるが、卸・仲卸の手足を縛っている場合が多い。市場外で何の縛りも受けないプレイヤーが、卸・仲卸が手を出せない分野をどんどん奪っている。このような現状が卸・仲卸などの経営を圧迫し、苦境に陥らせている根本にある。
――市場機能強化のためには卸と仲卸の協力と機能強化が必要だ。
高木 卸売市場の担い手として卸・仲卸の存在は非常に重要であるというのが我々の認識。それぞれの得意分野を生かしながら協力していくべきだと思う。
卸・仲卸が市場流通の中心となり、様々な情報を受発信する仕組みに作り直す必要がある、というのが中間とりまとめの基本的な方向性。
産地の情報は卸売市場に集まってくるが、担当者の個人レベルでしか今は活用されていない。非常にもったいないことだ。それら情報を共有化して、瞬時に小売店まで流すという受発信機能を発揮すべき。
「どこかがおかしい」
――今の水産流通は誰も満足していない。
高木 消費者は価格が高い、生産者は魚価が安いという。川上から川下まで誰もが満足していない今の水産流通はどこかがおかしい。その点をしっかり把握した上で、抜本的な改善が必要だ。
魚離れというが、消費者に魚を食べてもらえるような流通が構築されていないのが実情。消費者は魚を食べたがっている。市場流通の問題点を改善することは、すなわち水産物の消費拡大につながっていく。
情報の共有化を
――問題解決に向け卸と仲卸ができることは。
高木 昔は魚屋さんが対面販売を通じて、産地などの情報を発信し、消費者からの情報を受信し市場に伝える役目を果たしていたが、今は違う。卸・仲卸が量販店などをサポートしながら、産地との連携を深めて情報を共有化すればいい。
一部ではそのような取り組みがされているが、それが普遍化された卸売市場のビジネスモデルになっていない。あり方研究会は、卸と仲卸が本来持っている機能の強化をすべきと提案している。
情報の受発信、さらに発揮を
6つの機能を最大限生かして
――市場法による縛りが根本の問題である。
高木 市場法そのものというより、それに派生する規制や慣習的な規制がまだ存在する。それらを一度リセットする必要がある。リセットした上で市場の機能強化をすれば、産地に対して消費者ニーズを伝えたり、逆に生産者の情報を正しく消費者に伝えるなど、情報の受発信機能が格段に向上するはず。
――中間とりまとめでは、卸売市場法の廃止を提案している。
高木 卸売市場の存在は重要だが、改正を続けてきた卸売市場法の役目は終わっていると思う。小手先だけ直しても意味が無いので、一度リセットして“新卸売市場法”のような新たな法律を制定したらどうか。行政には抜本的な課題として検討してもらいたい。
また、研究会では卸売市場は基本的に公設民営にすべきと提案している。
一気にドラスティックに変えるのは難しいだろうが、段階を追って新たな枠組みに作りかえる必要がある。それにより、卸売市場が6つの機能を上手くつなげて、市場に荷が集まるような仕組みにするべきだ。公益性を考えると、基盤となるインフラ整備は公がやるべきだと思う。
インフラ部分は公的支援が必要
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市場流通の魅力を見直すべき |
――情報の受発信の機能強化に向けて何が必要か。
高木 産地市場とのネットワークを作るためのIT化は不可欠。ただし、インフラ部分は公的支援が必要。卸・仲卸自身も今は経営が厳しいから投資する余裕もない。また、メリットが出なければ投資する意味がない。機能強化されないまま卸売市場に投資しても、業務改善や効率化に多少は寄与するが、さほど大きな効果は期待できない。情報の受発信能力を格段に高められれば、産地・消費地ともにメリットが生まれてくる。その情報を経営資源として活用すれば、量販店などへの対応も変わってくるはず。
――卸・仲卸の意識改革も必要だ。
高木 あり方研究会の“あり方”という言葉に重要な意味がある。全くの白紙の状態から卸売市場の理想形、いわば“北斗七星”を描き、そこに向けたステップをどう踏んでいくべきかを考えていく。ただし、理想を追うだけでなく、変革するには業界が汗をかかなければならない。
中間とりまとめでは、拠点市場とそれをとりまく衛星市場から成る全国の卸売市場の立地グランドデザインにも触れているが、卸・仲卸の数にも踏み込んでいかねばならない。それには業界の意識改革と覚悟が必要。覚悟がなければ北斗七星はいつまで経っても現実の星にならない。それぞれの卸売市場の卸・仲卸の経営判断の手がかりになるような提言にしたいと思う。