この人に聞きたい:第233回
(週刊水産タイムス:10/03/22号)
築地トップに聞く
大都魚類社長 加茂秀樹氏
一人勝ちも一人負けもせず
――マルハニチロホールディングス(当時はマルハグループ本社)から名古屋(大東魚類社長)へ3年、再び東京へ戻っての築地生活も8カ月を経た。
加茂 「まだ」と「もう」が交錯している。
――第3四半期までを総括すると。
加茂 売上げ総利益率はやや上がったものの、残念ながら減収減益。数量減の単価ダウンではどうしようもない。まだ海で泳いでいるサンマの価格が、スーパーのチラシで既に決められている。予定してきた量の入荷がなければ、多少高くついてもかき集めてこなければならない。需要と供給で価格が決まる市場メカニズムとしてあり得ない話だが。
――市場経由率の低下や歯止めのない低価格志向、さらに消費者の魚離れなど、一朝一夕には解決できない問題が目白押しだ。
加茂 今の水産物流通が抱えている構造的な問題に起因する。これを前提として、どう企業経営を安定させるか。個々の会社が取り組むこと、築地市場としてできること、国や東京都の施策など、やるべきことを整理する必要がある。ただ、何かをすればすぐに解決できるような単純な発想はしないほうがいい。ウルトラCなど、あり得ない。
――卸売市場の役割や、あるべき姿はこれまでも取り上げられてきた。
加茂 それなりに説得力があり、間違ってはいないと思うが、まさに「言うは易く、行うは難し」だ。課題は多岐、同時並行でやらないと無理だ。どの会社も給料が上がり、一人ひとりの可処分所得が増え、魚の値段が上がっても消費者に買っていただける――理想的な姿まで思い描くと国の経済政策にかかわる。
――赤字でも敢えて昇給を決断した大手企業もある。それはともかく、まずは大都魚類としてどうするかだ。
加茂 この環境下を想定した上で、新年度を含めた向こう3年間の中期経営計画の議論を始めた。社内で徹底した議論を行い、来期の第1四半期明けを目途に公表する。
――市場再編や卸売会社の合併も、必要性は叫ばれているものの、現実的にはなかなか進んでいない。
加茂 一部の地方空港が引き合いに出されるが、そもそもこれだけの中央卸売市場が必要なのかという議論。荷受会社も同様だが、いずれの企業にも従業員と家族がいる。それぞれの生活があるという現実を踏まえた話にならないと前に進めない。
――「卸売会社を減らす必要がある」だけでは解決策にならない。
加茂 卸売市場も農水省の管轄。だが、漁船漁業の減船に伴う政府の補償金のように、行政指導で会社をたたむ以上、国が面倒を見てくれという話にはならない。どうすれば荷受会社が今後も生き残っていけるか。築地に限らず、荷受会社のトップはみな真剣に考えている。
――4月から執行役員制度を導入、組織変更も行う。
加茂 営業部門もマグロ部の改編、加工品部の分割、営業企画部の改編などに踏み切る。営業企画部は営業開発部とし、企画課、営業課、開発課とする。急速に変化する経営環境に対し、柔軟な発想のできる人材を育てたい。加工品部は塩干部、日配部に分割し、2部体制で強化する。塩干は今や千代田さん(千代田水産)の一人勝ち。ウチは弱いから頑張らないと。
――「築地の大都」として全国の模範となり得るビジネスモデルを構築する使命があるのでは。
加茂 それがあれば苦労しないし、あればとっくにやっている。仮にそうしたビジネスモデルを構築できたとしても、完成形には成りえず、毎年変わることになるだろう。オーバーに言えば日々変わる。「生産者と消費者(小売業者)の双方に寄与し、仲買とともに歩む」という基本スタンスは変わらないが。
――当面は難しい舵取りが求められそうだ。
加茂 今の日本は漁獲量の減少にとどまらず、輸入も輸出も減っているような状況だが、中長期的に見れば世界の水産物需要が拡大する中で、今後は輸出に目を向けないわけにはいかない。いずれにしても、汗を出し、知恵も出して生きていかなければならない。身の丈に合わせるという発想も大事。一人勝ちは良くないが、一人負けもイヤだ。とにかく、築地市場にとって、また全国の荷受会社にとっても、この2〜3年が重要なターニングポイントになることだけは間違いない。