この人に聞きたい:第235回
(週刊水産タイムス:10/04/05号)
マルハニチロ 久代新体制スタート
安定経営こそ最優先課題
(株)マルハニチロホールディングス代表取締役社長 久代 敏男氏
水産・食品の両翼飛行へ
調達力と開発力を生かす
マルハニチロホールディングスは4月1日付で五十嵐勇二社長が取締役会長となり、新社長に久代敏男代表取締役副社長が就いた。久代氏2年半前にマルハとニチロが歴史的な経営統合を果たしてから、初の新社長となる。
――ニチロとの経営統合から2年半、事業会社がスタートして2年が経過したが。
久代 サントリーとキリンをはじめ、いくつかの企業統合が破綻するというニュースが伝えられる中で、マルハとニチロはこれといった軋轢(あつれき)もなく、うまく融合がなされてきたと思っている。
――具体的には。
久代 冷凍食品を主体として加工食品が非常に強いニチロと、水産商事で圧倒的な調達力を持つマルハの相互補完によって事業分野の懐が深くなり、実戦部隊も大きくなった。まさに「水産」と「食品」が車の両輪となり、両翼飛行できる体制になってきたと実感している。
現実的には激しい景気変動の影響で当初掲げた数値目標とやや離れた形にはなっているものの、戦う素地は十分に整ったと考えている。私と伊藤・坂井副社長の代表権を持つ3人によるトライアングル体制でスクラムを組みつつ対応していきたい。
――新年度は中期経営計画「ダブルウェーブ21」の最終年度となるが。
久代 リーマンショック以降、大きな景気変動があった。前3月期の決算や今後の経済状況を踏まえつつ、次期3カ年計画を前向きな形で策定していきたい。
――この4月1日には北海道・青森を1社6工場に統合したマルハニチロ北日本が誕生した。
久代 生産拠点は北海道を主体に多くあったが、統合の初年度から様々な手を打ってきた。今後はマルハニチロ食品、アクリフーズ、ニチロサンフーズなど、冷凍食品の一元管理を目指し、生産から開発、品質管理、物流に至るまでの統合の完成形を目指したい。
――要員の適正化は。
久代 当初目指した方向で進んでおり、食品セグメントを中心にコスト的にもかなりの統合効果が現れてきた。旧マルハ、旧ニチロを合わせた人数から派遣社員を含めて2割ほどの適正化が図られたほか、システム的にも物流の受注面などでメリットが生じている。
生産体制の整備も8割ほどできているが、経済情勢の変化でまだ高コスト化している部分もあるので、引き続き取り組んでいく。約200社のグループ会社の中には、構造的な赤字体質を抱えている会社もあり、経営改善策によって利益体質に転換できるよう改善を図っていくが、どうしても難しいということになれば、グループ全体の利益の底上げの観点から整理の方向性も視野に入れなければならない。
――社長に就任しての今の思いは。
久代 マルハニチロの歴史と伝統をさらに発展させ、安定経営を実現するのが最大の役目と自覚している。時宜を得た経営統合であったことを示す2年間であり、今後もマルハが持つ圧倒的な調達力とニチロの商品開発力・技術力が継承され、食品業界になくてはならない存在を目指す。
水産部門と食品部門の双方で安定的な収益体制を確立することが至上命題。保管物流事業は数字がある程度読める事業であり、さらにどのような手を打てばいいかを考えていく。
――海外はどうイメージするか。
久代 当面の主要課題は(1)海外事業の展開(2)グループ各社(約200社)の経営体質の強化(3)統合の総仕上げ――の3点。少子高齢化が進む日本にあって、国内だけで成長戦略を描くのは困難であり、海外展開を図っていかない限り、縮小に向かっていくことは明らか。M&Aに積極的に取り組んでいく。
これまで旧マルハも旧ニチロも諸先輩が常に新しい事業にチャレンジしながら、見事に事業構造の転換を果たしてきた。この点を我々はしっかり受け継いでいきたい。
特に健康食品や機能性食品、介護食品などの分野を大いに伸ばし、日本水産に差をつけられているファインケミカル事業やDHA・EPA関係の事業にも注力する。
――五十嵐勇二前社長について。
久代 明るいタイプの人であることは間違いないが、どんな状況に陥ったとしても決して動じることがない、秘めた力強さを兼ね備えていた。部下からみて非常に話しやすく、相談もしやすいトップであり、ぜひ見習いたいと思っている。
――「水産」と「食品」の融合が大きなテーマの一つだと思うが。
久代 人の面の融合で一番手っ取り早いのは人事異動だが、事業のコラボレーションを含め、グループ全体の人事交流を積極的に行い、融合を図っていく。
――世界レベルで水産物の争奪戦が展開されるようになると、これまでマルハが強みとしてきた調達機能がますます重要になってくる。
久代 この調達力と加工販売の機能を併せ持つことがマルハニチログループの最大の強みであり、この意味からも将来性の高い企業集団であると自覚している。この機能をさらに伸ばすことによって、我々の存在感も一層大きなものになっていくはずだ。