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この人に聞きたい:第237回
(週刊水産タイムス:10/04/19号)

魚の価値見直しと適正価格へ

(株)マルハニチロホールディングス 代表取締役副社長  伊藤滋氏

 

関東魚栄会で

★人事と組織について
 マルハニチロホールディングスの役員体制だが、マルハニチログループも統合3年目ということで統合の効果もしっかりと出てきており、次への飛躍を目指して新体制で新年度を迎えることにした。その結果、4月1日付で久代敏男代表取締役社長が就任。また、代表取締役副社長に私と、坂井道郎マルハニチロ食品社長が就任した。五十嵐勇二前代表取締役社長は取締役会長に就いた。私は引き続きマルハニチロ水産社長も兼務するので、引き続きご支援ご協力をお願いしたい。

★マルハニチロ水産関連の組織変更と人事異動について
 我々を取り巻く環境が大きく変化する中、変化に対応すべく、本年度は組織を大きく変え、本社営業部門は昨年までの10事業部を7事業部に変更し、水産加工品部を創設した。調達力に強い当社の強さをより生かすため、また、消費者ニーズにより直接応えるため、加工品への取り組みを強化する。魚栄会の皆様には従来の原反を中心とした取引のみならず、当社が作り出す加工品についても是非、力を入れて取り組んでいただきたい。
 国内営業部については、各営業部の担当範囲を大きなブロック単位で対応する。具体的には北海道営業部、関東・東北営業部、関西・中部営業部、九州・中国営業部の4営業部の構成。各営業部には、引き続き魚種別担当を配置している。

★2009年度のグループ連結実績について
 本年3月期の経営成績は、現在集計中で未確定だが、昨年のような株式評価損などが生じない分、最終利益では前年比で改善されるものと予測している。
 水産セグメントについては、漁業養殖ユニット・北米ユニットの大きな落ち込みと、水産商事ユニットでは鮪・カニ等の高級商材を中心とした販売不振と、すり身等を含めた全体的な価格下落から大苦戦を強いられ、計画を大きく下回った。
 一方の食品セグメントは食の内食回帰、原材料の下落に加え、2年目の統合効果も大きく出て、計画以上の利益を上げることができた。

★経済動向
 3月末の日経平均株価に代表されるように、最近の経済指標は、世界的な信用収縮懸念の後退や、中国をはじめとした各国の大規模な景気刺激対策効果による景気回復の進行を背景に、明るい発表が相次いでいる。
 しかし日本においては依然としてデフレ不況からの出口が見えず、収益回復の兆し(きざし)が見える分野は、外需に支えられる輸出主導型企業のみと言って過言ではないぐらいで、さらに政府の政策の不透明感もあり、景気回復への足取りが大変重い状況が続いており、しばらくはこの状態が続くものと予想される。
 その中で、我々水産・食品業界を取り巻く環境は「デフレ経済」、「消費低迷」といった出口の見えない悪環境から抜け切れず、本年度も「低価格化」の継続と「市場規模のダウンサイズ化」といったキーワードを念頭に入れることが重要と考える。
 現在のデフレは背景に需給のバランスが大きく崩れていることにあり、その主な背景には賃金の下落がある。厚生労働省より毎月発表される勤労統計調査によると、昨年末の冬の賞与は1990年の調査開始以来、初めて平均40万円を下回っており、また、2月の平均給与は全産業ベースで約26万円であり、21カ月連続の前年同月比のマイナスが続いており、平均賃金水準は90年前後のレベルとされている。
 個人消費を支える所得の最大の原資である賃金がこれだけ下落すると、消費者の適正価格、消費量に対する水準感が大きく下がり、我々の予想を超えて消費のガードを固める「市場のダウンサイズ化」が進んでいることを、我々は強く認識する必要がある。
 このように全体的にも特に水産物に対する市場がダウンサイズ化する中で、我々はどうやって生き残っていくのか、また、将来につなげていくのか、大変なターニングポイントにさしかかっているということを、我々は強く意識する必要がある。

★当面の対応と取り組み
 第一は、私がすでに何度も提起させていただいている「魚の価値」と「適正価格」について、である。今後、世界の水産物の流れは確実に多くの人口を抱え、経済の高成長が望まれ、それに伴い食生活が大きく変化する中国を代表とするBRICS諸国、並びに健康への関心が根強い欧米諸国への消費に大きく向かっていくことは間違いない。
 一方の日本では古来の食文化が崩壊し、デフレ経済下、関係者は価格訴求のみが唯一の対策であるかのような考え方が蔓延している状況であり、このままでは将来、日本市場から魚というものが消えかねないといっていいほどの環境が生まれつつあると言っても過言ではなくなってきている。
 我々は、将来予想される水産物の世界的争奪戦からくる食糧不足問題と、魚が本来持っている価値、すなわち健康への貢献といった大変な価値のある商品を、供給し扱っている重要な役割を担っていることを誇りに思い、消費者が納得し生産者が生き残ることができ、世界市場において買い負けせず、確実に日本市場への供給が継続できる「適正価格」というものを理解していただくといった難しいテーマに、根気強く取り組んでいく必要がある。
 二点目として、「魚の価値」を消費者に理解していただく上でもう一つ重要なことは「食育への取り組み」である。世界に誇る長寿国を達成・維持できているのは、古来からの日本人の食文化にあり、そのベースはコメと魚である。老人医療費の増大が大きなテーマとなり、社会保障費の負担増の不安が高まっている、病気発生後の対策よりも病気にかからない対策の方が、効果が出ると考える。国としてもこの観点から食生活の改善、すなわち食文化の回復に向けて取り組むべき。
 このことは、国が目指している食糧自給率の向上にもつながることになり、魚食文化の復活を目指す食育活動に対し、国が支援することは大いに検討する価値があると信じている。魚の食育普及に対して、我々業界自身の努力とともに、国からの支援要求運動を検討すべきと思います。当社も積極的に働きかけてまいりたい。

★「卸売市場のあり方」
 先般、全水卸が主催されている「卸売市場のあり方研究会」が最終とりまとめを発表した。ご指摘されているポイントは的を射たものばかりであり、特に中期的な行動指針で触れられた、卸売市場のオーバーストア状態を解消する業界再編についてと、流通起点の改革に向けて卸・仲卸業者の連携、協働化の推進については、初めて公式の場の議論となったということで個人的に高く評価している。
 マルハニチロ水産にとって、魚栄会の存在は他社にない強みの一つであり、その存在意義は統合によってますます大きなものとなった。魚栄会の皆様との基本は「共存共栄」であり、その最終目標は強力な「WIN−WIN」の関係を構築することにある。このベースにあるものは、お互いが強い立場で、やるべきことをやる、すなわち当社は安定供給体制を構築すること、一方の魚栄会の皆様には強固な販売体制を構築していただくことである。
 現在の卸売流通市場は2〜3年前までの緩やかな落ち込みから、最近は加速してきており、年率10%ダウン近いレベルまで落ちてきている現実を直視せざるを得ない。
 誤解を恐れずに言えば、基本的に大都市市場は別にして、一市場一荷受という考え方を持っている。皆様におかれては市場流通を取り囲む環境が大きく変化し、従来の対応では生き残ることも厳しい時代を迎えている中、将来の発展につながる再編問題に、真正面から取り組む必要があることを認識していただき、魚栄会の会員の皆様には是非、強い荷受の構築を目指していただきたい。

★目指すべき姿は
 「国内においてはトップサプライヤー、海外においてはトップトレーダーとしての地位を構築し世界に冠たる水産物のプロデューサーを目指す」基本方針は今後とも変えない。世界的に水産物の供給が頭打ちとなり、水産資源の規制と原料の争奪戦が益々高まってくることが予想される中、日本国内向けへの調達はますます難しくなることが予想される。
 この流れの中で、当社が求められる役割を果たすためには、世界の水産物の生産・流通の中で、常に国内向け供給を確保するため、いかに海外において生産面と販売面に関与できるかが課題となり、この役割を果たすことにより当社としては魚栄会を中心とした国内の取引先の皆様に安定供給を続けることができる。
 このことを実現するため、具体的には「資源アクセスの強化」と「海外市場への販売力強化」をさらに進めていきたい。

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