この人に聞きたい:第380回
(週刊水産タイムス:13/02/25号)
水産物輸出促進、厚労省と連携し、利便性高める
水産庁漁政部加工流通課 水産物貿易対策室長 伊佐 広己氏
(いさ・ひろみ)昭和59年東京水産大学水産学部海洋環境工学科卒業後、水産庁に入庁。遠洋課、管理課などを経て、平成21年7月に現職。昭和36年生まれ、東京出身。
伊佐 2012年の水産物輸出の実績は数量で前年対比4%増の44万t、金額で2%減の1701億円。東日本大震災や原発事故の影響で輸出が大幅に減少した2011年と比べて、昨年は飛躍的なV字回復とはなりませんでした。円高や欧州経済の悪化に加え、輸出の主要魚種である秋サケの不漁、風評被害が残る韓国向けのスケソウダラ輸出の減少などが影響しました。今年は円安傾向が続いており、良い数字が期待できると思います。
――各国の輸入規制の現状について。
伊佐 放射能検査や衛生証明などの各国の輸入規制が水産物輸出の足をひっぱっているのは事実ですが、放射能規制に関する緩和は世界的に進んでいます。例えば、EUでは昨年10月に規制が緩和され、放射能検査の対象地域・品目が縮小されました。
一方、規制緩和が進んでいないのが韓国や中国、ロシア。中国向けは昨年随分回復しましたが、韓国向けは厳しい規制と風評被害により減少しました。韓国では日本産食品に対する消費者の不安感が根強く、時間をかけて誠実に解決していく必要があります。
――輸出促進に向けて今後の課題は。
伊佐 放射能規制や風評被害に加えて、衛生証明書の発行やEU・HACCP認定などの手続きが日本の輸出関連業者の重荷になっています。この2つにつきましては、水産庁と所管である厚生労働省とが一体となり、迅速かつ利便性の高い認定・発行体制を早急に築く必要があります。
海外市場でのマーケティング活動も輸出促進に向けて重要です。対米輸出が年々伸びている養殖ブリも、欧州やアジアにおけるマーケティング活動を積極的に行えば、輸出が増える余地が十分にあります。米国にあれだけ輸出できるのですから、他の市場で売れない訳がないと思います。
――EU・HACCP認定の重要性について。
伊佐 今年初めに水産庁と厚労省が「EU・HACCPの早期認定に向けての取組」という連名文書を作成したことは非常にタイムリーであったと思います。北海道のホタテや秋サケの加工業者は、EU・HACCP認定取得への意欲が特に強いです。
人口5億人のEUは所得も大きく、潜在的には日本水産物の巨大市場になり得ます。特に東欧諸国への輸出は手付かずの状態。EU・HACCP認定が今後格段に増えるように成果を出していきたいと思います。
――水産物輸出促進の意義について。
伊佐 生産者は輸出のために漁獲しているわけではなく、需給調整による魚価の安定が目的。また、輸出の拡大は加工業・関連業者を含めた地域経済の活性化という点でも重要です。その点では北海道のホタテや秋サケの輸出は成功事例といえます。
国内生産価格が安いと言われる魚種で、需給調整や価格安定が必要な天然サバやブリ等の養殖魚は国際競争力もありますから特に輸出強化が必要と言えます。
1月末に、農林水産省も「攻めの農林水産業推進本部」を設立しました。現場の声を徹底的に吸い上げ、水産物の輸出拡大に取り組んでいきます。