この人に聞きたい:第389回
(週刊水産タイムス:13/05/06号)
水産基盤整備の課題と展望
水産庁 漁港漁場整備部長 宇賀神 義宣氏
(うがじん・よしのり)昭和54年農水省入省。17年水産庁漁港漁場整備部整備課長、21年同計画課長。4月より現職。穏やかな人柄で、人望も厚い。昭和29年、栃木県生まれ。東北大学大学院工学科卒。
復旧・復興の加速化に全力
水産庁漁港漁場整備部長に宇賀神義宣氏がこのほど就任した。東日本大震災からの復旧・復興をはじめ、防災対策や高度衛生管理対策など、水産基盤整備事業の課題と展望を聞いた。
――第一の課題は。
宇賀神 まずは東日本大震災からの復旧・復興の加速化に全力を傾けたいと思っている。被災地の漁港及び関連施設の復旧、集落の土地の嵩上げ、避難道路・避難場所の早急な整備が必要。また、壊れたものを復旧するというだけでなく、気仙沼や石巻、塩釜といった流通拠点漁港の荷捌き所を建て直す際には、高度衛生管理型の最新施設へと“復興”していく。
“大くくり化”で魅力的事業に
――工事の入札不調が復旧スピードを遅らせている。
宇賀神 資材の値上がりや原料不足、人件費の高騰が不調の原因。現在、各省が連携して上昇後の適切な価格で積算するよう対応している。地元業者が手一杯で遠方の業者に頼む場合などは、小ロットの事業ではなく、仕事の“大くくり化”をして魅力的な事業費規模にするよう進めている。
また、人手不足に悩む事業主体の負担を緩和するために、例えば女川町では、民間企業に市町村のやっていた仕事を任せるCM(コンストラクション・マネジメント)方式を取り入れており、これらの工夫により復旧・復興の加速につなげていく。
機能診断で施設を強化改善
――今後の防災・減災対策について。
宇賀神 これまでの復旧・復興作業の過程で教訓が見えてきている。防波堤の多くは台風や高潮を想定したものであり、津波を想定して造ったものはほとんどないが、今回の震災で、防波堤の津波に対する効果がはっきりと出てきた。防波堤は水を完全にシャットアウトすることはできないが、津波の勢いや高さを抑えて集落の被害を軽減できる。一定の効果を果たしそうな全国の防波堤については、津波に対する機能診断を行い、強化改善を図っていくことにしている。
防波堤のほかにも施設の耐震化や岸壁の強化、避難路・避難地の整備など、全国の津波被害が想定される地域で点検を実施し、必要な対策を図っていく。
高度衛生管理型漁港で輸出促進
――水産物流通機能高度化対策事業が拡充されている。
宇賀神 農水省全体として「攻めの農林水産業」を展開している。それに呼応した施策として、特定第3種漁港など一定の水揚量のある漁港で、高度衛生管理型荷捌き所の整備を広げていきたい。輸出促進や6次産業化、ブランド化につながることが期待できる。
また、魚が獲れないことには始まらないので、水産環境整備による資源回復対策にも力を入れる。藻場・干潟や地先の増殖場、沖合の浮魚礁などをバランスよく整備していきたい。水産庁の直轄フロンティア漁場整備事業では、本年度から島根県の隠岐海峡地区で湧昇流構造物を造成する。
――施設の老朽化への対応も求められている。
宇賀神 漁港整備は昭和26年から漁港法に基づいて事業を行ってきたが、貯まった資産は11兆円にも上り、全国に多くの漁港施設がある。中には古くなったものもあるわけだが、計画的に更新する「長寿命化」を図っていけば、自然に壊れるのを待って直すというやり方に比べて、全体としての寿命を延ばすことができ、安く済む。
――今年度の水産基盤整備事業予算は762億円が付いた。
宇賀神 平成24年度補正では大型の予算が組まれ、さらに今年度予算は前年度に比べ大幅に増加しており、合わせてかなりの額の事業費が確保されている。これを有効に使い、着実に事業を執行していく。国と県と市町村がしっかりと連携し、課題に取り組んでいきたい。