この人に聞きたい:第422回
(週刊水産タイムス:14/01/01号)
マグロの素晴らしさを世界へ
つきじ喜代村 社長 木村 清氏
食文化とともに資源管理も重要
昨年12月4日に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、年末の明るいニュースとして話題を集めた。和食と言えば真っ先に思い浮かぶのが「寿司」であり、寿司といえばネタの王様は何といっても「マグロ」。日本で最もマグロにこだわる「すしざんまい」(53店舗)をチェーン展開する、つきじ喜代村の木村清社長に、マグロへの思いを語ってもらった。
――ついに「和食」が無形文化遺産に登録された。
木村 常に最高の食材を求め、国内はもちろん、世界のあちこちを飛び回っていますが、実感するのは日本食レストランが世界じゅうでどんどん増えていること。回転寿司を含め、世界の日本食レストランの人気は高まる一方であり、今回の登録を機に、この動きはますます加速するでしょう。
――和食といえば魚とコメが主体。特に日本人は刺し身や寿司を好むが、海外ではどうか。
木村 世界の和食人気の中心もまさに寿司や刺し身です。以前は生食の食習慣がなかった国や地域でも、今や人々が寿司や海鮮丼などを好んで食べるようになった。マグロやサーモンがいい例。世界の水産物需要が右肩上がりで高まっているのも、こうした人気が背景にあります。
――世界の寿司の人気は、もはやブームを超えたさえ言われている。
木村 完全に「SUSHI」として定着しています。魚食がヘルシーである点も人気に拍車をかけ、その結果、和食が無形文化遺産に登録される上で大きな力になったと思う。ただ、それだけではダメ。
日本人として和食に誇りを持つのは構いませんが、おごるようなことがあってはならない。時折、勘違いしている人を見かけます。
私達は真摯に和食の良さ、和食の原点というものを今一度見つめ直して、日本に、そして世界に、和食の素晴らしさを謙虚に発信していく気持ちを持つことが大切だと思います。
――「すしざんまい」もいずれ海外へ進出されるのでしょうか。
木村 具体的なことはまだ、お話できませんが、当然、海外展開も視野に入れています。世界では魚食ブーム、寿司ブームと言われ、日本食レストランや回転寿司がどんどん増えていますが、「ナンチャッテ寿司」と揶揄(やゆ)されるようなクオリティーの低い料理も多い。しっかりと修業を積んだ職人による調理ではないから、まがい物のような寿司や和食が出回る。
――それでも日本食というだけで、それなりに繁盛している店もある。
木村 そうであればこそ、我々は本物の寿司、日本食というものを、しっかりと世界に広げていく必要があります。政府が今後、和食の世界展開を掲げるのであれば、まず、しなければならないことは人材育成、つまり優秀な職人を育てることです。
当社では平成18年から本物の寿司職人を育てる「喜代村塾」を開いていますが、ここでは調理の技術はもちろん、知育、徳育、体育、食育と全てを兼ね備えた職人を育成しています。職人の育成が何よりも求められます。
――ところで、去年の初競りでは大間のホンマグロを史上最高の1億5000万円(前年の約3倍)で競り落とした上、通常価格の寿司として販売し、話題を呼んだ。最後に木村社長のマグロへのこだわりを。
木村 競りは相手があって成立するもの。価格も相手次第ということになりますが、初競りの場合は縁起物ということもあって、つい採算を度外視してしまうこともあります。
それはともかく、マグロをこよなく愛するがゆえに、日本中の人々においしいマグロを食べていただきたいし、生産者も消費者も、流通業者も、そして我々のような寿司屋も含め、誰もがその恩恵にあずかれるような仕組みにしないといけない。
マグロ漁業が資源管理型の持続可能な漁業であり続けることが前提であり、そのためにはマグロのおいしい食べ方とともに、マグロ資源を大切にしていくことの重要性も日本が範を示し、世界に発信していかなくてはなりませんね。和食が無形文化遺産に登録されたのですから、日本の使命は重大ですよ。