この人に聞きたい:第463回
(週刊水産タイムス:14/10/20号)
高度衛生管理で攻めの水産業
水産庁漁港漁場整備部 高吉 晋吾氏
漁港の防災対策 機能診断から
平成27年度の水産予算概算要求額は2299億円で、そのうち水産基盤整備事業は859億円(対前年比19.0%増)を要求した。▽流通拠点漁港の高度衛生管理▽水産資源の回復▽漁港施設の防災・減災――対策の推進に重点配分している。その詳細や拡充事業について、水産庁の高吉晋吾部長に聞いた。
――水産基盤整備予算の平成27年度概算要求のポイントは。
「第1は、流通拠点漁港の衛生管理対策。国民に安全な水産物を供給することと、攻めの水産業を推進するため輸出の促進を図るのが狙いだ。衛生的で高品質な水産物を提供すれば、市場での競争力を高めることができる」
「特に特定第3種漁港で先行して整備が進んでいるが、他の漁港にも広げることが重要だ。具体的には岸壁に屋根を付けたり、鳥や直射日光、雨を避ける対策、清浄海水の導入、排水処理などを行う。規模の大きな市場は漁港の公共事業の枠組みの中で衛生管理型荷さばきき所を整備できる」
第2は、水産環境整備による水産資源回復対策だ。国内では資源水準が低位とされる魚種が4割ぐらいある。このため、海域全体の生産力の底上げが必要となっている。さらに、藻場・干潟の減少は大きな課題だ」
「漁港漁場整備長期計画で、水産生物の生活史に対応した広域的な漁場整備を打ち出している。魚がどこで生まれ稚魚になってどのあたりの海域を回遊して最終的に漁獲されるのかという、水産生物の生活史に対応して、それぞれの段階の環境で足りないところを人工的に整備していく。例えば藻場・干潟、餌生物を増やす増殖場、魚礁を造ることなどだ」
「第3は、国土強靭化のための防災・減災対策。南海トラフなどの切迫した大規模地震・津波などに対する漁港や背後集落の安全確保のため施設の機能診断を行いつつ、漁港施設の地震・津波対策、長寿命化対策を推進する」
「東日本大震災の経験を踏まえて、まず今ある施設が地震・津波に対して持ちこたえられるかという機能診断を行い、不足している場合は強化する。特に、拠点漁港を中心に取り組みを進めている」
「また、既存の漁港施設も老朽化している。進行状況を点検して保全計画を作り、適切な保全工事を行うことで、施設をできるだけ長く使う長寿命化対策が必要だ。施設が壊れてから復旧すると費用がかかるが、途中で手を入れれば、コスト縮減や予算面での平準化も図れる」
――拡充や新規事項について。
「輸出と国内競争力の強化を目指し高度衛生管理型漁港を整備するため、これまで特定第3種漁港に限定して補助対象としてきた荷さばき施設の附帯施設である冷凍・冷蔵設備といった衛生管理設備について、大規模な流通拠点漁港に対象を拡大する」
「豊かな海を育む総合対策事業にも、水産生物の生活史に対応した良好な生息環境空間を創出し、早期の効果の発現を求めるため、産卵場や稚魚の育成の場となる藻場・干潟の整備に当たり、モニタリングと合わせて行う播種(はしゅ)・移植などを補助対象として追加する」
「新規では、有明海で二枚貝の減少などが問題となっており、計画的かつ効果的に漁場環境の改善を図るため、関係県が漁場整備の総合計画(マスタープラン)を策定し、調査計画、漁場整備、モニタリングなどを行うことができる総合対策事業を創設する」
――漁港漁場整備長期計画(平成24〜28年度)の進捗状況は。
「地震だけでなく津波も考慮した漁港の施設の機能診断を、今行っている。数十年から百数十年の頻度で発生する頻度の高い「L1津波」に対して、主要な拠点漁港の防波堤や岸壁が持ちこたえるようにするため、まず機能診断からスタートさせている。持ちこたえられない場合は、対策工事を行う。長寿命化対策の保全計画策定も進んできた」
「それから、流通拠点漁港の衛生管理対策も推進している。特定第3種漁港でこれまで13のうち9漁港で、既に高度衛生管理計画を作成し順次工事に着工している。この取り組みを他の漁港にも広げていきたい」
「また、豊かな生態系を目指した水産環境整備も、15地区で生活史に対応した漁場整備のマスタープランが策定されており、5年間の目標である20地区を目指して進める」
――東日本大震災の復旧状況は。
「現在、東日本大震災で被災した漁港の9割以上で、部分的なものも含め陸揚げ岸壁の利用が可能になった。集中復興期間の最終年度を迎えるので、防波堤の復旧などを引き続き被災自治体と連携して加速させる。また、災害復旧事業と一体となって、被災した漁港の流通・防災機能の強化、地盤沈下対策などを推進している」