この人に聞きたい:第476回
(週刊水産タイムス:15/01/26号)
何が違う? MELとMSC
(一社)大日本水産会 事業部長 木上 正士氏
(きがみ・まさし)昭和36年3月生まれ。東京水産大学(現東京海洋大)卒業後、大洋漁業(現マルハニチロ)でトロール漁業に従事。平成17年に大日本水産会へ。企画課長、漁政部次長を経て現職。
海と魚食文化守る 理念は同じ
水産資源の持続的利用や生態系の保全を図るエコラベルとして、海洋管理協議会の「MSC認証」が国際的に普及している。一方、日本にも我が国の漁業実態を反映した「マリン・エコラベル・ジャパン(MELジャパン)」があり、認証事例が着実に増えている。そもそもMELとMSCとの違いは何なのか。運営主体である大日本水産会の木上正士事業部長(MELジャパン事務局長)に聞いた。
――MELジャパンは「日本版MSC」と言われるが、どう違うか。
木上 MELジャパンは、@漁業が適切に管理されているA対象資源が持続的に利用できる水準にあるB生態系の保全に適切な措置がとられている――の3つが認証要件です。
設立は2007年12月。消費者に資源管理や海洋生態系保全を積極的に行っている漁業者の取り組みを伝え、消費者が認証された水産物を購入することで、その漁業者を支援します。
FAO(国連食料農業機関)のガイドラインに沿った制度であり、認証にかかわる要件はMSCと大きな差はありません。
――MSCが世界に広まっている一方、日本ではMELの認証が増えている。
木上 MSCは単一魚種を対象とする大規模な漁業の認証が多い半面、日本の漁業は小規模で多様なため、それぞれで審査費用を賄うのが現実には難しい。
欧米に比べ「水産エコラベル」の浸透が遅れ、消費者が優先的にエコラベル製品を購入するといった行動パターンが定着していないことも理由の一つです。
MELは、漁業者や加工流通業者の認証取得にかかる経済的負担をできる限り抑制するように配慮し、日本の漁業に広く受け入れられることを目指しました。
――なぜ、少ない負担で済むのか。
木上 事案によって差はありますが、概ね50万円〜300万円の負担で生産段階認証を取得できます。これはMELジャパンの審査機関である(公社)日本水産資源保護協会が水産庁や都道府県、科学的知見を有する水産試験場のOBらで審査員を構成している点が大きい。地域の漁業に精通した審査員は全国にいるので審査費用を必要最小限に抑えることができます。
MSCは国際的な信頼、欧米市場における製品価値を有していますが、日本では数度にわたって海外から審査員を招く必要があり、その分の経済的な負担は大きくなります。この点でMELは、日本の漁業の実情に則した合理的な制度といえます。MELとMSCは決して対立、競合する関係ではなく、むしろ、お互いを補完し得る関係にあると思っています。
――消費者は製品にラベルがないと、認証製品かどうか分からないが。
木上 その通りです。MEL認証には、生産段階と流通加工段階の2種類があります。
生産段階認証は、生産者(漁協、団体等を含む)ごとに同一漁法による対象漁獲物を特定して審査機関に申請し、流通加工段階認証は、対象漁獲物やその製品を扱う事業者ごとに審査機関に申請します。流通加工段階でその水産物が生産段階認証を取得していることが条件です。必要に応じ、生産段階認証と流通加工段階認証を一括して申請することもできます。
最近も橘湾いわし巾着網漁業、宗谷サケ定置漁業、富山湾(氷見、七尾)寒鰤大敷網漁業が新たにMELジャパンの生産段階認証を取得し、認証取得数は合計22漁業となりました。
――まずは小売店で「MEL」ラベルが付いた水産物が増えることが大事。
木上 昨年から、海外への認証水産物の輸出を可能にするための環境づくりに着手し、MELジャパンの英語版ホームページをリニューアルするとともに、海外に向けたPR活動を強化しています。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックにおける日本の持続的水産物の提供についての議論も始まっており、こうした動きも注視しています。
「第12回シーフードショー大阪」(主催・大日本水産会、2月19〜20日)が大阪市のATCホールで開催されるのを機に、認証取得者に集まっていただき、「マリン・エコラベル・ジャパン普及協議会」を20日に開催します。ユーザー(外食)と生産者の“橋渡し”をする、ぐるなびから担当者を講師に招き、MEL認証製品の販路拡大、一層の普及を目的とし開催する初めてのセミナーです。
3月3〜6日に幕張メッセ(千葉市)で開催の「フーデックス・ジャパン」でもMELの商品を紹介して普及活動を行います。
――MELの普及拡大を図るチャンスの年。
木上 MELは水産資源と海にやさしい漁業を認証し、その製品に水産エコラベルをつけて消費者に漁業者の取り組みを理解して頂く制度です。
消費者の皆様が、売り場でMELのラベルが付いている水産物を選んでいただくことが、海と食卓を守り、魚食文化を未来につなげることにつながっていきます。