この人に聞きたい:第493回
(週刊水産タイムス:15/06/01号)
経年劣化への対応に本腰
東京冷蔵倉庫協会 会長 吉川 光太郎氏
(よしかわ・こうたろう)日本水産でマーケティング企画グループゼネラルマネジャー、営業推進室長、南米駐在(グループ現地法人社長)、取締役南米事業執行を歴任し、平成21年6月から東京水産ターミナル社長。関東冷蔵倉庫協議会会長、日本冷蔵倉庫協会副会長。慶大卒。
2020年東京五輪へ
首都圏の食を支える
2020年のオリンピック・パラリンピック開催を控えた東京。浅草や築地市場、東京スカイツリー、東京ディズニーランドなどの観光地に外国人の姿が増え続ける中で、五輪開催で東京周辺の人口はさらに膨れ上がる。首都圏の胃袋を支える東京の冷蔵倉庫業界の取り組みを聞いた。
――東京の冷蔵倉庫業界の現状について。
吉川 電気料金値上げ、フロン冷媒問題、トラックドライバー不足、CO2排出量削減、施設の経年劣化は、業界全体が直面している共通の課題と言えますが、特に東京の冷蔵倉庫の経年劣化は深刻な様相を示しています。
――晴れの東京五輪を5年後に控え、古い冷蔵庫ばかりというのでは心もとない。
吉川 3月末の東京の冷蔵倉庫の設備能力は135万tで、平均経年数は37年。竣工してから30年以上が全体の6割強を占めます。80万tの冷蔵倉庫が今後20年に建て替えの必要が出てきます。
――既に建設工事に入った冷蔵倉庫もあるが。
吉川 来年11月開業が予定されている豊洲新市場に2つの冷蔵倉庫(ホウスイ、築地魚市場)が建設されるほか、東京団地冷蔵もこの春、解体工事に入りました。東京水産ターミナルも、施設の耐用年数からいって、この20年のうちに新たな施設に生まれ変わっていなければなりません。
豊洲の4万t、東京団地冷蔵の18万t、東京水産ターミナルを28万tとすれば、50万tまでは見えている状況です。
――全体で80万tの建て替えなら、あと30万tとなるが。
吉川 少子高齢化で日本の人口は減少傾向にありますが、首都圏は事情が異なるようで、将来(2030年)の東京の人口は2010年と変わらないという試算結果が出ています。東京都民1300万人、首都圏3000万人の食をお預かりする冷蔵倉庫の社会的使命を果たすためには、現在の規模を維持する必要があります。
――冷蔵倉庫は50年使える半面、今日決めて明日から作るというものではない。
吉川 結論から言うと、建て替えについては民間の力だけでは解決できないと考えています。現有地での建て替えとなると、2〜3年の事業ストップを余儀なくされます。一般の民間企業がそれに耐えられるでしょうか。建て替えのための資金確保さえ大変であるのに、事業中断のダメージも加わり、事業経営が非常に困難になることは目に見えています。
ビルド&スクラップが必要
――つまり「スクラップ&ビルド」ではなく「ビルド&スクラップ」にする必要がある。
吉川 そうです。ただ、そのためには種地が必要不可欠であり、東冷倉として東京都に建て替え用地の確保を要望しているところです。
消費地に近い東京港周辺に冷蔵倉庫を確保することは、流通効率や鮮度の維持だけでなく、一時的に備蓄し、消費時期に合わせて迅速に配送する上で、集配送機能の向上にも直結しています。さらに臨海部は交通アクセスが良く、中央卸売市場にも近い。通関・動植物検疫手続きでも距離的な優位性があります。
現実に、全国の輸入冷凍品(水産、畜産、冷凍食品)の33%が東京港に入っています。今後、TPPの加入などで冷凍品がさらに増加すると予想されます。
――東京港周辺に冷蔵倉庫が立地していることに大きな意味がある。
吉川 集配機能の向上だけでなく、物流全体の効率化や災害時での食料確保といった観点からも欠くことのできない要素です。
土地の問題をクリアできれば、民間の共同出資による団地形式の大型冷蔵倉庫の共同利用など、工夫の余地が生まれます。小さな冷蔵倉庫を複数建てるよりも、大型冷蔵倉庫にした方が経済的にもスケールメリットが発揮できます。この問題に関しては東京都も、冷蔵倉庫の機能に理解を示しており、東冷倉としてたびたび要望する中で、前向きに検討していただいているものと感じています。
「グリーン物流」考慮した研究に着手
――東京五輪に向けて、東京の冷蔵倉庫も大きな転換期に差し掛かった。
吉川 東冷倉としても、建て替え需要への対応に際し、トラック待機時間の削減などの「グリーン物流」を考慮したハード・ソフトの研究に着手しています。食の基本は安全安心。「さすがは東京の冷蔵倉庫」と言われるようフードディフェンス等も徹底し、さらなる物流品質の向上に努めていきます。