この人に聞きたい:第639回
(週刊水産タイムス:18/05/28号)
将来は売上高1兆円企業に
日本水産(株) 代表取締役社長執行役員 的埜 明世氏
(まとの・あきよ)神奈川県出身、昭和28年11月生まれ。慶大商卒後、昭和52年日本水産入社。取締役、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を経て、今年3月に社長就任。海外経験豊富。
前3月期は増収増益で最高益を達成し、中期経営計画「MVIP2017」(2015〜17年度)で設定していたKPI(主要業績評価指標)を全て達成したニッスイ。この4月から新中期経営計画「MVIP+(プラス)2020」に入った。的埜明世社長は「将来は売上高1兆円、営業利益500億円をめざす」と意気込む。
★MVIP2017総括
MVIP2014は無配からという厳しい状態でのスタートとなったが、「MVIP2017」の最終年度は売上高(6830億円)で前年比7%増、営業利益(234億円)も3%増益となり、最高益を更新した。配当も一株当たり8円まで増配。財務体質も着実に改善している。養殖事業の拡大(銀鮭、サバ、カンパチ、完全養殖マグロ、配合飼料)、欧州事業の拡大、鹿島医薬品工場の竣工を果たした。
★新中期経営計画へ
無配当の時代は事業基盤の再構築が最優先課題、まずは「普通の会社」に戻ることだった。その後、収益の回復と安定化に取り組んだ。新中計の「MVIP+(プラス)2020」では、成長と企業価値向上への取り組みを強化する。また将来的には「売上高1兆円、営業利益500億円」をめざしたい。
持続的な成長の実現に向け、@豊かな海を守り、持続可能な水産資源の利用と調達A安全・安心で健康的な生活に貢献B社会課題に取り組む多様な人材が活躍できる企業――に取り組む。これは社会課題への取り組みでもあり、国連が採択したSDGS(持続可能な開発目標)にもつながることだ。
★新しい価値
「MVIP+(プラス)2020」における新しい価値とは、「ライフスタイルの変化に対応」「海外展開」「ひとつ上のステージに向けた取り組み」を指す。
即食・簡便・健康などのニーズに対応し、加工・生産機能を強化・再編する。IOT/AIによる省人化も進める。
水産では特に養殖事業における給餌、尾数の集計、成長の把握、魚病対策などに有効活用できると期待している。食品、ファインもそれぞれの分野で活用の道がある。
★養殖事業と海外展開
養殖事業の海外展開では、豪州最大のエビ養殖会社に資本参加した。養殖場に一次加工場を隣接させ、高品質なブラックタイガーを初年度で1万tの生産をめざす。日本やオーストラリア,ニュージーランド市場で独占的に、また関連製品をニッスイグループ各社の販売網を通じてグローバルに販売する。
南米以外の養殖事業、新規魚種の拡大、陸上養殖の事業化(エビ、サバ、サクラマス)、完全養殖マダコの研究も進める。
★社会課題への取り組み
「新しい価値」における社会課題への取り組みでは、持続性に配慮した資源アクセスや資源の最大活用と製品ロスの最小化、健康経営がポイントとなる。
健康経営では働き方改革や社員の健康促進に取り組み、残業削減、休暇取得を促進する。ダイバーシティも規定はあるが風土として追いついていない。介護も避けて通れない課題。
★ガバナンス強化
取締役会の任意の諮問機関として「指名・報酬委員会」の設置や「自社株式報酬制度」の導入を6月27日の株主総会に付議する。役員報酬と業績・株価との連動性を明確にし、役員にオーナー感覚を醸成する。
★投資計画
成長事業を中心に投資を強化する。新中計期間の投資総額は900億円(M&Aなど100億円含む)。
水産事業は230億円(海外は110億円)で国内外の養殖事業のほか新船建造(共和水産のまき網船の代船)、物流・海洋事業など150億円。食品事業は360億円(海外は160億円)で欧州(主にイギリス、フランス)の生産能力強化、アジアはデルマール(タイ)のファストフード向け新工場、国内もチルド新工場を計画している。
★新中計の数値目標
売上高7560億円、営業利益290億円をめざす。ROA(総資産利益率)は現状の4.0%から4.5%に引き上げる。
初年度となる2018年度は売上高6980億円(前年比102.2%)、営業利益220億円(同93.7%)の見通し。
国内は増益を見込むが、南米鮭鱒養殖事業での数量減と市況の軟調が影響しており、収益悪化のカバーは難しい状況。ただ、南米鮭鱒養殖事業に関して今回の数量減が魚病が原因ではなく、来年以降は業績が改善するとみている。