この人に聞きたい:第745回
(週刊水産タイムス:20/07/20号)
お客様と従業員に安心を
角上魚類ホールディングス(株) 蜑コ 浩三会長兼社長
(やぎした・こうぞう)新潟県長岡市出身。昭和15年4月生まれの80歳。もともとの家業は鮮魚卸と網元。昭和49年にゼロから魚屋をはじめ、今日を築いた。鮮魚専門小売チェーンで「独り勝ち」と言われる。
角上魚類は新潟県の寺泊港を地盤に関東、信越に大型鮮魚専門店を22店舗展開する。「わざわざ車を使ってでもいきたい魚屋」として知られ、その人気ぶりに「角上渋滞」という言葉まで生まれた。売上高は会社設立以来、常に右肩上がり。
――新型コロナウイルスによる自粛要請や非常事態宣言に伴う影響は。
蜑コ浩三会長兼社長 コロナウイルス感染拡大が始まった2月頃、これから先、店の営業はどうなるのかと心配しましたが、3月から「巣ごもり消費」で売上げが伸びてきました。前年同月比で3月は10%増でしたが、4月は15%増となり、5月は25%増。6月も20%以上伸びています。刺身や寿司、惣菜が非常によく売れています。
――コロナ禍の中で売上げが伸びるというのはすごい。
蜑コ 本当に有難いと感謝しています。新しいお客様、特に今まであまり来られなかった若い世代が増え、「角上魚類」を評価していただけた。それがまた口コミとなって広がりを見せているようです。
――「若者の魚離れ」と言われますが、逆ですね。
蜑コ やはり日本人は魚が好きだということを改めて実感しました。従業員は今までに増して忙しいと思いますが、疲れた顔を一切見せず、これまでと変わらず、はつらつとした態度で接客してくれています。
――何よりの魚食普及。
蜑コ 店では全国の浜から届いた旬の新鮮な魚が並んでいます。そこから気に入った魚を選んでいただければ、刺身で食べられるよう、三枚おろしなどの調理も無料で行っています。
「買う心 同じ心で 売る心」です。丁寧な接客を何よりも大切にしていますので、当たり前と心得ていますが、コロナ禍の中でも平常心で、しかも懸命に働いてくれる社員一人ひとりに、今さらながら頭が下がる。日本一の社員をもつことができたと思っています。
――コロナ感染防止策にはどう取り組んでいますか。
蜑コ 「安定した食品提供の継続」とともに、最優先すべき課題は「お客様と従業員の安心・安全」です。各店舗ともマスク着用の上、手指の消毒はもちろん、就業前の検温も実施しています。
私自身、普段は新潟と関東を行ったり来たりの生活ですが、県をまたぐ行動の自粛要請が出てからは、寺泊から出ませんでした。また各店舗を回っていきたいと思っています。
――来店者に対しての取り組みは。
蜑コ 入口に手指消毒用アルコールを設置し、また店内の密度を下げるために「少人数での入店」「買い物時間の短縮」をお願いしています。わざわざ来ていただいているお客様に、ある種の制限をお願いするのは心苦しい限りですが、こうした状況下ではやむを得ません。
マスクの着用、出入口での消毒液の活用、ソーシャルディスタンスの確保も常にアナウンスしています。買い物かごの除菌処理、レジカウンター前には飛沫感染防止用シートを設置するなど、できる限りの感染対策に努めていきます。
――東京など、感染者が再び増えています。業界は今後「ウィズコロナ」にどう向き合えばよいと考えますか。
蜑コ 私たちは「日本一の魚屋」をめざしています。お客様に喜んでいただくためにどうすればよいか――これが創業時からの変わらぬ理念です。
お客様の心に寄り添った魚屋であり続けるため、「鮮度は良いか」「魚種(品揃え)は豊富か」「価格は安いか」「感謝の気持ちを込めた接客態度」の4つの「良いか」を常に自身に問いかけています。
新型コロナは未知の危機です。こういう商売ですから、もともと食中毒の防止や衛生管理には、特に注意を払ってきましたが、「お客様と従業員の安心安全」のため、今、取り組んでいる感染対策の一つひとつを怠ることなく、これまで以上に徹底していきたいと思っています。