この人に聞きたい:第865回
(週刊冷食タイムス:23/01/01号)
冷食で新領域に挑戦
(株)ロック・フィールド 代表取締役社長 古塚 孝志氏
ロイヤル(株) ロイヤルデリ事業推進部長 庵原 リサ氏
(ふるつか・たかし)1988年大阪電気通信大卒業後、ロック・フィールド入社。製造を担当。2007年執行役員、2010年上席執行役員、2011年取締役、2013年常務取締役、2016年専務、2017年副社長、2018年7月から現職
(いはら・りさ)1991年サントリー入社。2010年日本サブウェイ、取締役マーケティング本部長。2012年グロービス経営大学院MBA取得。2018年ドンク、マーケティング室ゼネラルマネジャー、2020年4月ロイヤル、ロイヤルデリ事業推進部長
古塚氏「食卓に欠かせない存在へ」/庵原氏「外食の味をしっかり届ける」
コロナ禍を機に冷凍食品の利用者は増えたが、依然として冷凍食品を利用したことがない生活者は14%(日本冷凍食品協会調査)にのぼる。ノンユーザーを取り込むうえで明るい動きは、有名店の味が自宅で楽しめる冷凍グルメが食卓に欠かせない存在になりつつあることだ。冷凍グルメの立役者である中食・外食のリーディング企業の現状認識と今後の方針が知りたい。そこで新春にあたり、ロック・フィールドの古塚孝志社長とロイヤルの庵原リサロイヤルデリ事業推進部長に対談を通じて考えを伺った。
古塚 RFFF(ルフフフ)ブランドを2022年11月に立ち上げました。「レストランの味をご家庭に」という、創業以来培ってきたコンプトは変わらずに、高品質な冷凍食品という新たなフィールドへ挑戦したいとの思いをRFFFブランドに込めました。コロナを経たこともありますが、生活者の食に対する価値観が変わってきています。生活スタイルの多様化による食事の選択肢の広がりにより、外食もいいが自宅でちょっと贅沢な食事をしたい、というニーズのさらなる高まりにより、冷凍食品は食卓に欠かせない大きな存在になったと認識しています。
――冷凍食品は競合が激しいはず。
古塚 ブランドを改めてチャレンジします。当社は2030年に向けたビジョンで方向性を示しています。その中で謳っていることに、日本だけでなく、世界の食文化を惣菜という形に変えて、『場を、時間を、心を、自由にする新しい惣菜』を提供するということがあります。冷凍食品RFFF(ルフフフ)は、そのひとつです。既存のブランドやジャンルにとらわれず、新しいカテゴリーや品揃えの幅を広げることで、冷凍食品の世界観を広げることにチャレンジします。
そこでロック・フィールドの料理を再スタートし、新たなブランドを育てる考えです。ファクトリー=大きなキッチンで、培ってきた調理技術を駆使し、料理の基本をおさえ、手間ひまをかけ、本格・本物を考えて商品をつくっていきます。RFFFがお手伝いしたい食シーンは、ひとりでちょっと贅沢に、自分へのご褒美、時には2人で、家族で。当社の品揃えでホームパーティーもできます。
庵原 RFFFは頭にRFがあることでロック・フィールドと伝わるし、FFで冷凍食品を表現した素晴らしいブランド名だと思います。ロイヤルデリの場合、ロイヤルホストの冷凍食品とも、ロイヤルグループの食品ブランドとも受け取れますからジレンマで、個人的には迷いがありました。RFFFも決まるまで社内で様々な意見があり、議論があったはず。
古塚 デザイナーと共に、複数のブランド名やロゴの候補から選びました。RFの文字がないもので格好いいと感じたものもありました。仮にそれに決まっていたら当社のブランドと伝えるのは大変だったかもしれません。RFFFはRF(ロック・フィールド)を前面に打ち出して市場に評価されることを目指しつつ、全社挙げて冷凍食品に自信を持って取り組んでいきたいという思いを込めたブランド名です。ロック・フィールド・フローズン・フーズの頭文字を「ルフフフ」と読ませ、笑みがこぼれる様子を表現し、やわらかく軽やかに、親しみやすくしました。
庵原 コーポレートブランディングですね。
古塚 RF1や神戸コロッケを知っていても「ロック・フィールド」を知らない学生が結構います。そこでコーポレートブランディングにも力を入れていきます。当社は2022年6月に50周年を迎えたのを機にコーポレートシンボルマークをつくりました。それまでシンボルマークはありませんでした。メッセージは色々と出してきたものの、「ロック・フィールド」を前面に出していませんでした。
庵原 ロイヤルデリはコロナ前の2019年12月に立ち上げました。コンセプトのひとつがレストランクオリティーです。ロイヤルの味をしっかりと届けること、それが当社の考えるレストランクオリティーです。
コンセプトの2つ目が洋食を核とした世界の料理です。シェフがその国に行って学び、つくり上げた料理のレシピの数をシェフに聞くと「星の数ほどある」といいます。このストックがあるからこそ短期間で多種多様な世界の料理をロイヤルデリでラインナップできました。
3つ目は冷凍技術です。当社創業者の江頭匡一の指示で、冷凍食品事業にいち早く、1963年に着手しました。
古塚 先を見据えた事業を着実に具現化していることに敬意を表します。当社もルーツを辿るとレストランであり、惣菜事業を主体として創業しました。チルドの惣菜以外に、自宅でレストランクオリティーを楽しんでいただける冷凍食品を約10年前から展開しています。RFFF以前からRF1と神戸コロッケの2つのブランドで冷凍食品を展開しています。
古塚「ニッチで上質な市場育てる」/庵原「冷食でお客様の課題を解決」
庵原 冷凍食品はお客様の課題解決を図るソリューションであり、一緒に、お客様のために新しい市場をつくっていくことができればと思います。
古塚 「ロック・フィールドとロイヤルは冷凍食品で競業している」と第3者からよく言われるのですが、私はそう見ていません。思想や考えに似ているところがあるかもしれませんが、商品も味づくりも違います。ニッチで上質な冷凍食品の市場を育てていくためにも、両者の冷凍食品事業が共に成長することが、冷凍食品市場の拡大につながると信じています。
終売で駆け込み需要
古塚 冷凍食品は自社のオンラインショップで、コアのユーザーに商品をお届けするため品揃えを拡充してきた経緯があります。RF1はRFFFに半年ほどかけて順次切り替えますが、神戸コロッケのブランドは継続します。オンラインショップの会員にRF1の終売と、RFFFに切り替えることを伝えると、RF1の数アイテムに駆け込み需要があり驚きました。ファンが多い商品は廃止するわけではなく、リニューアルして再スタートします。
庵原 アイテムの入れ替えは当社にとっても悩ましいところです。売上げだけで割り切れないところがありますね。御社も何らかのロジックでアイテムをカットしているにも関わらず、そこに駆け込み需要があるということで、気づかれたことはありますか。
古塚 冷凍食品は自社のオンラインショップと他社が手掛けているオンラインショップやギフトカタログ、店舗でいえば高級スーパーなどで販売しています。RF1からRFFFへの切り替え対象商品は売上げが低いものを選定し整理をしたのですが、自社オンラインショップでは、切り替えに伴う終売品の駆け込み需要が発生しています。
当社オンラインショップはロック・フィールドメンバーズという会員制です。自社オンラインショップの利用者は当社をよくご存知で、リアル店舗もよく利用いただいている当社のファンと考えています。改めて駆け込み需要をファンの声として受け止めることが必要だと気づきを得ました。
庵原 当社はコロナの最中にECサイトを立ち上げました。ECはチャネルとしての機能に留まらず、お客様との関わりをつくるプラットフォームとして機能することが大事と考えています。冷凍食品に限った話ではありませんが、しっかりとした既存のチャネルがある大手食品メーカーが敢えてECに参入しているのは、お客様との接点がリアル店舗だけだと、流通を間に挟むため、お客様との関わりが作りにくいからであり、ECに参入しお客様とのダイレクトの関わりをつくっている。ECサイトにはそういう役割があると思います。
ECはコミュニケーションのツール
古塚 当社会員のロック・フィールドメンバーズに情報を発信すると色々な意見が返ってきます。ECはコミュニケーションツールです。
庵原 ECで注文すると店舗で受け取れる仕組みがありますね。
古塚 「ウェブ予約取り置き」といいますが、店舗に来ていただかなくても商品を予約できる利便性を提供しています。
庵原 ロイヤルデリはコロナ禍で浮上したニーズに合わせて2020年10月にリブランドしました。21年を総括すれば、ロイヤルデリの認知度向上と、需要を探る取り組みで試行錯誤する日々でした。22年は改善を図る「見直し」に軸足を置き、整えながら活動を進めました。商品の見直しでは、世界の料理を準備しながら、看板商品である洋食をてこ入れし、ディナーにも最適な洋食メニューを4品、新たにラインナップしました。
2つ目はサービスの見直しです。これはECサイトがメインになりますが、お客様アンケートを行い、実際にスマホを使ってもらい、どういう導線で商品を購入するかなどについて調査しました。食品ECに求める機能を探り、レビュー機能追加など利用者からみての優先度が高いものから対処します。
3つ目はコスト面で、商品のクオリティーは維持しながら、包装工程の工夫で原価の低減を図りました。
古塚 定番商品はリニューアルを重ねているはず。いかなる場合にリニューアルされているのでしょうか。
庵原 試行錯誤です。ロイヤルデリを始めた頃はグランドメニューを半期に1回、定期的に見直すことを考えていましたが、最近はそこまできっちりと決めていません。リニューアルの際に参考とするのが販売数、生産ロットといった数値のほか、レビュー欄のコメントです。定期的に実施しているアンケートで課題を探ります。
数値とお客様の声を参考に開発陣と協議します。リニューアルのタイミングは在庫状況も関係しますし、モノによって異なりますが、判断のベースは数値とお客様の反応になります。
古塚 リニューアルが逆効果になってはいけないですし、チルドは商品在庫を持たないので比較的改良がしやすいですが、冷凍食品はある程度の商品在庫を持ちながら安定的に供給する必要がありますから、改良をすぐにできない難しさがありますね。
古塚「増産体制を検討」/庵原「グループ外の販売増やす」
庵原 アイテム入れ替えの意思決定のリードタイムは冷凍食品になると確かに長くなります。どのKPIが良いかを探っているところです。お客様のリピート率なども指標にしています。
古塚 ロイヤルデリは世界の料理を上手にラインナップしていて、カタログもそうですが、惹きつけるメッセージ性があります。どのように工夫されているのですか。
庵原 チームは少人数ですが、試行錯誤しながら行っています。売上げをつくる商品がある一方、世界観をつくる商品もある。このへんのせめぎ合いはまだまだPDCAに落とし込めていません。ロック・フィールドのサイトを拝見しますと、商品の世界観をしっかり築かれている印象を受けます。ユーザーの心をくすぐる言葉を使っている。ブランドやデザインのマネジメントはどうされているのですか。
実物ない中で魅力伝えるのは難しい
古塚 販売促進とオンラインショップの管理担当者らが写真の構成や言葉などを管理・運営しています。オンラインショップの表現に足りないと思うことはあります。実物がない中で商品の魅力を伝えるのは難しいですから。当社は惣菜事業を展開する中で、食卓シーンを提案することをベースに、リアル店舗の商品開発やメッセージづくりを行ってきました。冷凍食品も食シーンや、どういう形で利用してほしいのかを考え、メッセージを出しています。現状のものが正しいとは確信できないところがあって、まだまだ勉強しなければなりません。
庵原 当社の場合、ECで気をつけていることはシンプルに、商品がおいしそうに見えることです。サイトだけではなく同梱物とか、リーフレットを含め、その見え方などについてお客様に定期的にインタビューしています。初期には知り合いに商品を送り、自分達が考えたことと先方の受け止め方のギャップあわせを行い、表現や情報を改善しました。
古塚 どう伝えるかは難しいところですね。RFFFの展開にあたり、単品を並べるのではなく、ケース1〜2本でRFFFの世界感を出し、お客様にしっかり訴求することがブランディングのひとつだと考えています。オンラインショップについては先ほど少し触れましたが、要望があるものについて速やかにリニューアルをかけて品揃えを行います。
庵原 ロック・フィールドは顧客と長年向き合い、ファンを増やされていて、いつも勉強させていただいています。ロイヤルデリもエンゲージメントをいかに高めていくかが大事だと考えています。愛用者をいかに増やすかが今年の大きなテーマです。販路政策はグループのチャネルとECサイト、外部の流通・小売店がありますが、バランスを取るために、外部の流通・小売店で取り扱っていただけるところが増えるように力を入れます。
古塚 外販・卸先となる小売のターゲットは。
業態より立地あるいはその両方見る
庵原 社内で議論を重ねているところですが、私はセグメントで切るのは違う気がします。ロイヤルデリを必要とされるお客様が商圏内にどれくらいいらっしゃるかが大事で、業態よりも立地、あるいはその両方で見ることが大事だと考えています。
古塚 立地は大事ですね。地方でも良い立地は多くあります。ただし、あちこち出しても複雑になりますから絞り方は課題です。
庵原 営業コストが必ず発生することなどを考えますと、立地が点在するのが本当にいいのかどうか、この先は考えながらやっていく必要があると考えています。
古塚 御社は一時保管されてから、取引先の倉庫に在庫を入れて、そこからの出荷する流れがメインですか。
庵原 基本的にはそうです。
古塚 エリアで(納品先の)固まりをつくるイメージですか。
庵原 そこまで戦略的には行っていません。収益上の課題はいかがですか。
古塚 RF1の冷凍食品と、神戸コロッケは企画開発から製造、物流まで担当を置く分業制にしてきました。オンラインショップ担当、外販・卸の営業担当、企画開発担当、製造担当といった形です。新たにRFFFブランドを立ち上げたところですので、この先を見据えたとき、これまでの体制ではなく冷凍食品の事業部制を考えています。
売上げ目標は2025年4月期10億円です。その先のステップで増産体制を検討します。また出荷は現状、自前でやっているのですが、ある程度落ち着いてきたら出荷は管理を委託し、我々はメーカー本来の役割に特化します。