この人に聞きたい:第940回
(週刊水産タイムス:24/07/08号)
新たな挑戦でステップアップ
丸紅シーフーズ(株) 代表取締役社長 矢野 雅之氏
(やの・まさゆき)1988年に丸紅入社後、約10年間はマグロなどの買い付けを担当。2012年11月から3年間は丸紅の米国子会社の社長を務めた。帰国後、水産副部長を経て、16年4月から水産部長。2018年3月からベニレイ(現丸紅シーフーズ)社長を務める。1964年生まれ、兵庫県出身。
プロキシマー事業に期待
ベニレイ(東京都港区)は7月1日付で丸紅シーフーズ(株)に商号変更した。それに先立ち、4月には親会社の丸紅から貿易業務の移管を受け、従来の水産物卸売業に加えて輸出入業務を内製化した。今秋には丸紅グループが独占販売契約を結ぶプロキシマー社の陸上養殖サーモンの出荷を開始する。新生・丸紅シーフーズの新規事業を含めた今後の事業展開などについて矢野雅之社長に聞いた。
――4月1日付で実施した機構改革の進捗は。
矢野社長 機構改革の柱は▽貿易業務の移管に伴う貿易推進室の新設▽プロキシマー事業部の新設▽福岡営業所の支店への昇格――の3つ。
貿易推進室の室長は丸紅からの出向社員で、そのほか貿易実務経験者や外部からの採用者で構成している。また、将来を見越して新入社員2名を配置し、スタートした。
基本的に3月31日までの契約分は丸紅側が通関を行い、4月1日以降の契約分は当社が担当している。今はまだ並行期間で、業務量はこれから増えていく。本格的な稼働は下半期から。助走期間の今の状況は極めて順調だ。
福岡営業所は従来水産業務だけだったが、4月から食材本部の業務も担っている。食材本部の人材を配置し、福岡営業所から福岡支店に格上げした。
――プロキシマー事業部の今後の展開について。
矢野 現段階ではサーモンの成長度合いを見ながら、販売に向けた準備を進めている。できるだけ優良な顧客からの支持を得られるよう営業活動をしている。今後、フィレ加工などが必要となるため、国内の加工会社の選定なども進めている。
プロキシマー社のサーモンの成育状況は概ね順調ではあるが、第2群のみ若干計画の遅れが出ている。9月下旬または10月上旬に初出荷する予定で、その後は安定出荷できるよう準備を進めている。
先日、プロキシマー社のサーモンを当社で実際に試食したが、なかなかの出来栄えで、十分に市場性はあると自信を深めた。
大規模陸上養殖のトップバッターであるため、業界全体のプラスになるようにしっかりとしたものを販売し、陸上養殖サーモンの魅力をアピールしたい。
プロキシマー事業部は総勢4名。平玲子事業部長は刺身系サーモンの知見がある人材。そのほかのスタッフはやる気のある人材が適任と考えて社内公募した。
同事業は独占販売契約で、一手に引き受けて販売するという絶好の機会を得た。これをしっかりと定着させることが重要。冷凍品を主体に扱う当社にとって生鮮アトランの扱いは新たな挑戦。これを基軸に、国内の養殖魚などにも手を広げ、プロキシマー事業部が事業本部になるように頑張ってほしいと発破をかけている。
直貿で利益を確保成長につなげる
――7月1日から社名が丸紅シーフーズに変わった。今後どのような会社にしていくか。
矢野 商号変更の目的は1ランクも、2ランクもステップアップした企業に成長することを明確にするため。国内外に新社名を認知してもらうよう努力していきたい。
これまでも調達先は丸紅からが3割。残り7割は外部から調達していた。今後は3割の部分を自社で調達することになる。直貿することで利益をしっかりと取り込み、次の成長につなげていくのが狙い。
一方で、既存の取引先に伝えているが、何でも直貿する訳ではなく、既存のサプライヤーとの協業・連携をこれまで通り進めていく。
海外加工会社との提携なども視野に
――今期の各事業本部(水産、食品、西日本)の重点課題について。
矢野 当社のミッションとして「産地と消費者をつなぎ、この国の『食の未来』を、健やかに彩る。」を2022年から掲げている。できるだけ消費者に直結する形が理想だが、量販店や外食、中食をターゲットに積極的にニーズの汲み上げを行い、アプローチしていく。課題はそれをどこまで広げられるか。
私としては、『この国の』となっているが、『世界の』と将来的に言えるようにしていきたい。貿易機能を生かし、海外市場も見すえて輸出なども強化したい。
直貿になったことで、海外の加工会社との出資を含めた提携なども視野に入れていく。
昨年、広島の牡蠣加工業者のオーシャンポイントと提携したが、国内の加工業者や養殖業者なども提携先の対象となる。
――前3月期の業績について。
矢野 前3月期業績は減収減益となった。売上高は水産本部が431億円、食材本部が288億円、西日本本部が190億円、全社合計で852億円。前期は養殖本マグロやギンダラ、イクラといった高級商材の市況が下がり、痛手を被ったが、3月末でマイナス要因はすべてクリアにしている。社員には前期の業績を忘れ、今期はX字回復しようと求めている。今期の第1四半期(4〜6月)は順調だ。
食材本部は外食産業を中心に積極果敢に今年は売上げを取りに行く方針。手応えを感じている。