この人に聞きたい:第954回
(週刊水産タイムス:24/10/21号)
状況変化や新たなニーズに対応
水産庁 漁港漁場整備部 部長 田中 郁也氏
海業立ち上げ支援事業で海業への一歩を
令和7年度水産基盤整備事業の概算要求額は対前年比18.8%増の866億9500万円となった。漁港漁場整備長期計画(4〜8年度)の4年目の予算であり、食料安全保障の確立に向けた持続的な水産業の発展と活力ある漁村の実現のために満額確保が期待される。水産庁の田中郁也漁港漁場整備部長に、7年度事業概算要求のポイントについて聞いた。
――令和7年度は約867億円を要求している。
田中部長 強靭化、輸出促進対策、そして当初予算に盛り込んだ施策を各地域でしっかりと進めていくための予算額だ。
「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」と「総合的なTPP等関連政策大綱」「食料安全保障強化政策大綱」に係る経費は予算編成過程で検討し、補正予算を含めて必要な予算を確保する。
7年度は漁港漁場整備長期計画(令和4年度〜8年度)の4年目であり、掲げた目標を達成できるよう、確実に事業を進めなくてはならない。
概算要求に盛り込んでいる施策は長期計画に掲げた重点事項に沿って設定している。一つは「水産業の成長産業化に向けた拠点機能強化対策」。流通拠点漁港などの機能強化と、養殖生産拠点の整備を推進する。
二つ目は持続可能な漁業生産体制の確保。漁場生産力の強化や漁港施設の強靭化、漁港施設の長寿命化を図る。
三つ目は漁村の活性化と漁港利用の促進。漁港の環境整備と漁村の生活環境改善を進める。
5本の拡充 事項を要求
――今回、5つの拡充事項を要求している。
田中 長期計画の期間中にも産地をめぐる様々な状況の変化が生まれている。拡充事項では、これまでの制度を改善して新たな状況に対応した整備を進めるための施策を示している。
1点目は港湾における衛生管理体制の構築。港湾では、例えば北海道釧路港や石川県金沢港などが水産物の水揚げ基地になっている。
漁港における衛生管理対策はこれまでもしっかりと進めてきているが、港湾の漁港区においても水産物の水揚げは相当量ある。港湾でもしっかりと衛生管理対策を図り、国内水産物の品質と衛生管理水準の向上につなげていく必要がある。
すでに港湾背後の衛生管理型市場の荷さばき所や製氷施設については整備対象としてきたところだが、要望の強い消費地ニーズに合わせた加工を産地でも進められるよう、整備対象を加工施設にまで広げたい。
2点目は、水産物の流通機能の強化に向けて持続的な衛生管理体制を確保するため、これまでの荷捌き所に加えて製氷施設、冷凍・冷蔵施設、加工場の老朽化対策についても補助対象とする。
小規模な共同利用施設の整備に関しては「浜の活力再生・成長促進交付金」で支援しているが、大きな漁港ではかなりの施設規模となることから、公共事業で対応している。
こういった施設を作ると、年数の経過に伴い当然老朽化していくわけだが、それを計画的に維持修繕していくことで長寿命化を図ることができる。今回、長寿命化対策事業の対象として、大規模な製氷、冷凍・冷蔵施設、加工場を追加した。
これにより、施設を作るだけでなく、その後のメンテナンスの際にも支援することで、将来的な更新に係る費用を縮減できる。
――拡充事項では気候変動の影響への対応も要求している。
田中 これまで、漁港施設機能強化事業で地震・津波、風浪対策として施設の強靭化に取り組んできた。今回、将来的な海面上昇にも対応できるよう、事業の対象に気候変動対策を加える。
また、海業推進を目的に今年4月の法改正により創設した「漁港施設等活用事業」のために実施する漁港施設の再編・整序を、補助対象にしたい。漁港の機能を高めながら、海業を取り入れていく。
昔のままの土地利用をしている漁港の中には、効率的な利用ができていないところがある。漁業に要する施設を集約し、生まれたスペースを「漁港施設等活用事業」として海業に利用できるようにする。
拡充事項の5点目は漁業集落排水施設の広域化・共同化。人口減少を背景に、漁業集落排水施設の維持管理に係る経済的負担が課題となっている。
そこで、漁村近隣の公共下水道につなぎ込みをして処理場を共同化し、それなりの人口規模で汚水処理をすることで効率的な運用につなげることができる。今回、集落人口100人以上だった事業の要件を緩和し、100人以下でも取り組めるようにする。
今回の5項目の拡充要求では今起こっている課題へのニーズに応えつつ、将来に向けて先取りできるような事項を挙げている。ぜひこれらを実現できるよう、財政部局へしっかりと要求していきたい。
――非公共の漁港機能増進事業は8億円を要求している。
田中 今回新たに、「漁港施設等活用事業」に係る漁港の環境整備を追加している。水産基盤整備事業よりも小規模な事業についてはこちらで対応していきたい。
新規で海業振興支援事業
――海業振興関係の予算については。
田中 新規で海業振興支援事業に5億円を要求している。海業の構想段階の取り組みを支援するもので、海業立ち上げ支援事業に2億円、漁業者などの海業取組促進事業に3億円を充てている。
海業にモデル的に取り組んでいる地区の実証事業、連携強化に向けた民間事業者と地方公共団体などのマッチングシステムや体制づくり、アドバイザーの派遣やシンポジウムの開催など、漁協が海業への一歩を踏み出すために必要な支援を用意する。
実施段階での支援としては、浜の活力・再成長促進交付金に海業支援メニューがあるのでしっかりと活用していただけるようにしている。
公共事業や機能増進事業においても、漁港で海業の取り組みが推進しやすくなるように環境整備づくりに取り組む。
――海業の全国展開に向けて、今後どう取り組んでいくか。
田中 今年6月に、自民党の水産総合調査会・水産部会で「地域の所得と雇用の創出を実現する海業の推進に向けた提言」を出していただいた。
この提言で示された施策を道しるべとして、海業の全国展開に向けて対応してくための取り組み案を▽地域が大きな一歩を踏み出すために必要な施策▽海業の裾野を広げ、発展させるために必要な施策――の2本立てで整理している。関係省庁・団体と連携を図りながら取り組みを推進していく。