この人に聞きたい:第956回
(週刊水産タイムス:24/11/04号)
浜に寄り添う会社でありたい
ニチモウ(株) 代表取締役社長 青木 信也氏
(あおき・しんや)=1962年6月生まれ、62歳。岩手県遠野市出身。1985年北大水産学部卒後、ニチモウ入社。ニチモウマリカルチャー四国営業所長を経て、2018年執行役員福岡支店長、20年同資材事業本部長、21年同海洋事業本部長、22年6月取締役に就任。24年6月から現職。
原点に立ち返り漁網事業強化
今年4月に就任したニチモウの青木信也社長。同社入社後は宮城・女川の雄勝事業所に約17年、その後も子会社のニチモウマリカルチャー四国営業所長など養殖事業に長年関わってきた。環境に配慮した持続可能な漁業・養殖業が求められる中、漁網会社として創業したニチモウを今後どのような方向に進めていくのか、青木社長に聞いた。
――長年、養殖事業にたずさわってきた。
青木社長 北海道大学水産学部を卒業して、入社したのが1985年4月。入社後は研究開発担当として、宮城県雄勝町にある雄勝養殖事業所でギンザケの選抜育種やマガキや岩ガキの三倍体など種苗生産に取り組んだ。同事業所を拠点に、ギンザケ養殖業者などに稚魚や飼料の販売事業を行っていた。雄勝事業所には約17年間いたが、宮城県のギンザケ養殖産業に長年従事し、良い時代から悪い時代までひと通り見てきた。ピーク時300件以上がギンザケ養殖を行っていたが、その後の相場下落で減少し、震災後は約60件まで減ってしまった。
2002年に子会社のニチモウマリカルチャー四国営業所長として愛媛県宇和島市に転勤となった。ブリやマダイなど暖水域の魚の養殖業者に漁網や飼料などを販売していた。暖水域の養殖産業は、生産者と飼料会社が連携したグループ化による取り組みが、ギンザケ養殖業界よりも進んでいた。
冷水域、暖水域とも養殖業は自然を相手にするため不安定で、助け合わないと成り立たない。当社グループは様々な資材を提供する言わば黒子役として、量販店などのニーズに応えた商品づくりをサポートするのが役割。技術力に加え、様々な会社の協力を得ないとできない。
――社長としての抱負は。
青木 松本和明会長(前社長)からは、当社グループのコア事業である海洋事業、特に漁網事業について原点に立ち返って見直してほしいというミッションをもらった。
当社の経営方針は「浜から食卓までを網羅し繋ぐ」。漁網会社としてスタートしたのが原点。そこに立ち返ることが重要である、と常に意識して仕事してきた。浜に寄り添い、元気になってほしいという思いが強い。
50年後、100年後についても基本的には浜に根差し、漁業者に寄り添う会社であり続けたい。
――今期(2025年3月期)最終年度の現中期経営計画「Toward the nextstage」の進ちょくについて。
青木 最終年度である今期は連結売上高1350億円、営業利益34億円、経常利益36億円を目標としており、進ちょくに遅れはあるが、年末商戦を迎える第3四半期に挽回して目標達成につなげていきたい。
――次期中計の柱となる事業について。
青木 次期中計の最終目標数値はおぼろげだが、10年先の2035年度の目標として、経常利益で現状の2倍をめざしたい。
次期中計でポイントになる事業は、海洋事業と機械事業。食品事業はじっくり地盤を固めながら着実に強化していく。資材事業の化成品も新しい取り組みを進めている。
海洋事業の中では漁網・漁具資材と養殖がカギを握る。漁網・漁具については、生分解性プラスチックを用いたバイオマス漁網や海洋資材が柱になる。
機械事業については、食品加工機器単体の販売に加えて、今後は製造ライン全体での提案を強化していく。機械メーカーではないので、様々な機械メーカーと連携し、顧客にベストな提案をしたい。
――福岡県豊前市で九州電力などと一緒に取り組んでいる陸上養殖事業について。
青木 北九州での事業は第一段階として当初計画した年間300tを生産できる体制はできているが、まだ完成形とは思っていない。最終的な目標として年間3000tの生産をめざすが、品質面で物足りない部分もあり、コストや販売先などを含めて解決すべき課題はまだある。システム設計から資材調達など、内製化する必要性も感じている。
陸上養殖事業は今後強化するべき方向にあることは間違いなく、いかに実装化するかが課題。現在の養殖魚種はトラウトだが、将来的に魚種を変えることも視野に入れている。生産規模と販売の仕方により収益は変わってくる。陸上養殖ということで付加価値が付くような販売の仕方でなければならない。
――「サステナブル経営」(SDGs対応)に重点を置いた取り組みについて。
青木 SDGsなどに対応したサステナブルな取り組みは、現段階で収益性を予測するのは難しいが、会社として取り組むべき重要な課題。海洋プラスチック問題の解決に向けては、漁網メーカーとしての責任もあり、漁網リサイクルの実装化などを推進したい。課題は多いが、技術的な部分では日々進化している。
バイオマス漁網の実証試験では、藻類の種苗の付き方が良く、初期成長が良いことがわかっている。モズク養殖などでも興味深いデータが実証で確認されている。
生分解性プラスチックのタコつぼでは、通常のタコ壷と比べて約1.75倍もタコが獲れるというデータも出ている。
バイオマス漁網・漁具については未だ開発途上にあるが、今後さらに拡大していきたい。これこそ当社の真骨頂といえる事業かもしれない。
――食品事業の今後の展開について。
青木 当社オリジナルのブランドを生かした商品も今後は増やしていきたい。どちらかというと不得手な部分ではあるが、原料や産地の特徴を生かした最終製品を自社で開発していく必要がある。
――水産加工会社などとの関係強化について。
青木 国内外を問わず、水産加工会社などへの設備投資やM&Aなどについては、必要に応じて積極的に進めていきたい。水産加工会社に限らず、海洋事業、機械事業などを含めてM&Aによるグループ力強化が今後必要になってくる。様々な案件があるが、できる範囲で進めたい。
――ニチモウグループの強みは何か。
青木 経営方針の「浜から食卓までを網羅し繋ぐ」に行きつく。食卓(消費者)が求めるニーズを浜(漁業者)にフィードバックしながら、研究開発を進める必要がある。私自身も研究開発を長年担当してきたが、営業社員にも研究開発のマインドが求められる。そういったところが当社の強みのひとつといえる。そのため、事業の幅が年々広がっている。