●信頼の揺らぎに危機感8月の小売店の売上げ最低に冷食協・垣添直也会長が語る
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冷凍食品新聞協会(会長・越川宏昭本社社長)は日本冷凍食品協会の垣添直也会長を招き、26日東京・日比谷の東京會舘で懇談会を開催した。垣添会長は(1)業界を取り巻く環境の変化(2)協会活動の現況(3)将来に向けた提言などについて意見を語った。垣添会長の発言内容は次の通り。
環境の変化 特徴的なのは「ゆらぎ」がでてきたことだ。食の信頼へのゆらぎ、それも日本だけでなく米国まで波及するなど国際的な広がりになってきた。もうひとつは需給に関するゆらぎだ。食料需給がタイトになったのはおよそ30年前に旧ソ連の穀物の不作に端を発して以来だが、今回は不作というような単純な要因ではなく、開発途上国の国々の需要爆発、バイオエネルギーに穀物が流れるという複合的な背景がある。食を取り巻く環境変化としてはこの2つが直面する問題だといえる。
冷凍食品に限れば、ひどい年になった。ミートホープ社の牛ミンチ肉偽装や中国産品へのバッシングが特筆される。長年にわたり築いてきた信頼を失ったわけで業界の痛手は大きい。マーケット調査によれば調理冷凍食品の売上げは1月以来マイナスを続けており、8月は前年比94.8%と最低を記録している。
もっと悲惨なのが農産品で8月は78.8%と需要期にもかかわらず今年に入り最低を記録している。こうした外的要因による落ち込みをいかにクリアするか、業界あげて考えるべきだ。
食料需給が逼迫 分水嶺を越えた
世界的な食料資源高騰がメーカーの収支を圧迫している。もはやメーカーの自助努力の限界を超えており、再生産可能な健全な産業構築のためには価格改定を避けて通れない状況。適切な価格改定が必要であり、それを穏便に解決し、次の展開につなげていきたい。大きな価格改定は1990年ごろに実施して以来で、前回はメーカー、卸、小売店が価格改定の恩恵を3等分しようという暗黙の了解のもとに推進した。現在はその当時よりも価格水準を落としている。健全な状態に価格を改定すべきだ。
協会活動 協会の事業として9月9日日曜日に「なるほどフォーラム」を開催した。同様の催しは4年目だが、これまでで最高の手ごたえを感じている。これまでは協会事務局が多分に官僚的で消費者との間に隔たりがあったと思う。うまくいくようになった最大の要因は木村均専務理事のような官僚臭のない人材をゲットできたことだと思う。出演者のキャラクターもよかった。作り手と食べ手と双方向のコミュニケーションがあってひとつの輪ができた。
山本宏樹常務理事が加わったのも協会にとって力強い。品質や技術の革新が求められている状況だけに新しい技術・情報に通じた人材の加入はありがたい。
日本冷蔵倉庫協会(垣添直也氏が会長)との連携も推進している。倉庫の容積を最大活用するための適切な包装規格を求めるダウンサイジングやバンド掛け問題などについて共同研究している。
将来への提言 まず消費者へのお役立ちの進化、そして国際化という2つがキーワードになる。簡便性や安全性などの機能的な進化だけでなく、自然解凍に代表されるような技術を伴う質的な進化が求められよう。食というのは基本的にドメスティック(地域的)なものだが、日本の質的に優れた食が世界に広がっていくのは間違いない。寿司などその代表例だが、冷凍食品でもこれから具体化していくだろう。枝豆など当社(日本水産)と連携している大明食品(台湾系中国冷凍野菜メーカー)は枝豆1万tのうち10%は米国に輸出している。日本発の枝豆を日本メーカーの仕掛けで世界に発信していく時代を迎えていると思う。
価格改定は穏便に浸透図れ
これまでは価値と価格の構造が硬直化している。いくらで売るというのがはじめにあって、だからいくらで作るという発想になる。これからは先においしいものを作ろうという発想があって、作った結果いくらになるという価値優先のモノづくりがあっていい。技術的な進歩があって簡便性、安全性も進化する。しかし、何よりもおいしさの進化を考えていくべきだ。価値と価格の関係をフレキシブルに考えてみてはどうかと思う。
供給過剰の時代はもう終わった。食料は足りない時代に入る。飲料水は端的な例だが、世界の源泉は世界的な大手企業によってほぼ抑えられている。
穀物をはじめ食料の需給がタイトになるのは数年前から見えていた。分かっていても有効な手を打てずにきたのが実情。
これまでは金さえ出せばなんでも、いつでも買えた。しかしそういう時代は終わった。いわば「分水嶺を越えた」と認識する必要がある。