この人に聞きたい:第52回
(週刊水産タイムス:06/07/24号)
全水卸(全国中央市場水産卸協会)
伊藤新会長のもと発進
全国中央市場水産卸協会 会長 伊藤 裕康 氏
伊藤裕康会長インタビュー
「魚の価値高め、資源を有効に」
全国中央市場水産卸協会(全水卸)の平成18年度通常総会及び理事会で、関本幸也前会長(東都水産会長)に代わり、伊藤裕康中央魚類社長が会長に就任した。伊藤新会長は、厳しい環境が続く水産業界の中において、「時代の流れに即応した流通をめざし、全国の個性ある各地域の会員と積極的な情報交換を行って、多様性のある協会運営をしたい」と抱負を語っている。卸としての立場から、日本の水産業や世界的に需要の高まる水産資源、卸売市場が抱える問題点や将来を聞いた。
――卸売市場及び卸売市場法の現状と課題は。
2年前に卸売市場法が改正され、一部の機能が変わったが、「市場はこうあるべき」という具体的なビジョンを描いた改正ではなく、今現在問題になっている部分をとりあえず手直ししたという印象が強く、中途半端な状態といえる。手数料の弾力化が3年後。今はちょうど市場が変化する経過途中にある。
以前と変わったことは、供給と消費の両サイドが非常に大きな変化をしていること。商品や物流、情報・通信技術が大きく変化する中で、市場の変わり方がまだ足りないと思う。基本的には、古くからの体質を残しながら進んでいる。
市場外流通などの競合勢力が姿を変え、規模を大きくしているが、市場経由率は曲りなりにも約6割台をキープしている。卸各社は様々な工夫や改善、改革に努めている。扱い数量はここしばらく右肩下がりが続いてきた。単価は約25年下がり続けたが、ここ2年で下げ止まり。最近は逆に魚価が全体に上がってきている。
日々の商売をしながら、今後の卸売市場のあり方をどうあるべきかを各社が模索している段階にあるといえる。周りの環境やビジネスが変わる中で、市場だけがいつまでも古い形でいるわけには行かない。
――築地だけを見た場合の課題は。
築地市場は、6年後には豊洲の新市場へ移転する予定だ。移転後の施設整備や使用料の問題など色々あるが、一番の問題は新市場でどういう仕組みの仕事ができるかどうか。
コストの低減や合理的な物流システム、安全安心の確保など、様々な要素があるが、それらをどこまで実現できるかが最大の課題だと思う。そう考えると、今はチャンスともいえる。今の仕事を再点検して、どこを活かして、どこを改善すべきか。卸から仲卸、関連産業も含めて何か共同でやれることはないか。物流などにしても、一元化をテーマに色々な検討を現在行っている。競合だけを考えて無駄な部分が多い気がする。新市場への移転を契機に、それらの課題をクリアするチャンスだ。せっかく移転するのだから、新しい市場に向けて、建物だけでなく中身も変わる必要があると思う。それが一番のテーマだ。
――常々、水産資源の大切さを説いているが、日本の水産資源について。
水産資源は有限で、大事に有効に利用することが必要だ。国際的に見れば、安心安全や健康食ブーム、肉に対する不安などの影響で、水産物に対する関心や需要の高まりを日々感じている。ブリュッセルや(私も実際に行った)ボストンシーフードショーは盛り上がり、日本で開催する展示会とはまた違う雰囲気で、水産物に対する需要の広がりを肌で感じた。
そのような環境の中で、資源の大切さを痛感している。最近最も感じることは、日本周辺海域が抱える水産資源が非常に恵まれていること。単に面積が広いだけでなく、魚の密度は世界的に見て高い水準にあるという。この資源を上手に管理しながら、漁業をしていかないとならない。
――日本の漁業については。
日本の漁業は危機的な状況にある。特に遠洋と沖合漁業はかなり厳しい状態だ。代船建造もままならず、マグロ漁業に至っては、操業が続けられずに廃業せざるを得ない船が続出している。そんな中で、今後の日本の漁業はどうなってしまうのか。資源を大事にしながら、これらをいかに再生産できるような漁業にしていくかを真剣に考えるべき。そのためには、今までのように漁業者は漁業者、加工業者は加工業者、卸は卸、小売は小売のように、それぞれがバラバラで考えるのではなく、各産業が成り立つように連係する必要がある。現在、水産基本法に基づいて水産基本計画の見直しを一生懸命行っているが、各論だけではなく、もっとトータル的に日本の水産全体を見直していくことが大事だと思う。
その中で卸売業者としては、もっと魚の価値と魅力を見出していき、それらを消費者の方々に伝えて、消費を広げていく役割を果たしていく。単なる魚食宣伝ではなく、漁業者と協力して素材や商品にかなった、消費に見合った漁業にしていくべきだ。漁獲してからの処理の仕方などを、川上から川下までの総合力を結集して工夫していく。そのような連係が今こそ大事で、必要性を感じている。
メディアの方々には特にお願いしたいが、断片的にそれぞれが考えるのではなく、トータルで考えないと日本の水産業はダメになってしまう恐れがある。
魚の価値を高めて、広めて、そして資源を大切に消費していく方向に進むべき。各市場でそれぞれが努力をしているが、日常的にもっとその様な心がけを図っていきたい。それがわれわれのベースになる考えだと思う。
各地域と積極的に交流を
全水卸の組織見直しも
――食文化を守るという点で卸売市場が果たす役割は。
弊社で時々行っていることだが、各地域独自の浜の料理の仕方、食べ方を聞いてくると、すぐにレシピ通りに自社の調理室で試作して食べてみる。これは大事なことだと思う。日本は魚の食文化では世界でナンバーワンというがとんでもない。海外でも、その国の魚が本来持つ特性を活かした食文化が存在する。そのような異文化との交流も必要なこと。
日本の素晴らしい点は、海外から新しい魚や、形・種類の違った魚が入ってきた場合に、それをうまく取り入れる力があるところ。例えば、養殖サケが入ってきた時に、サケの刺身や寿司が生まれた。食べ方を広げていくことができるのは、日本人の持つ特技といえる。加工技術にしても様々な工夫をして、海外産のタコやシシャモなどを取り入れて、今ではなくてはならない商材に育て上げてしまう。水産物に対する、日本の加工や流通などの順応力、適応力に驚かされる。今後はますますその力を発揮していかねばならない。
地方ごとのおいしい食べ方は探せばいくらでもある。ナメタガレイは煮魚の最高品とうたっていたが、意外にも刺身にしてみると非常においしいことがわかった。色々な魚の良さを見つけることも卸売業者の役割のひとつといえる。
――全水卸会長として、新体制における方針や抱負は。
これまでも副会長や常任理事などを務めてきたが、ほとんどが中央からの一方通行で終わっていた。今の市場法は各地域、各市場単位で対応するようにできている。各市場の実情や課題などを知るために、積極的に交流を深めていきたい。各地域を代表する副会長が7人。すでに第1回目の正副会長会議を行ったが、活発な意見交換で3時間があっという間に過ぎてしまった。
これまではそのような機会が少なかったが、2カ月に1回位のペースでやりましょうと提案したところ、副会長のみなさんから、賛同を頂けた。地方の場合、中央の情報が届きにくいということもあって、ぜひそのような機会を作ってほしいとのご意見が多かった。私自身ももともとそう思っていた。
また、全水卸自体の組織の再検討、見直しも図っていきたい。現在、組織内の委員会が4つほどあるが、それらのあり方など組織としての課題はあると思っている。それらの見直しをしていく。