この人に聞きたい:第79回
(週刊水産タイムス:07/2/12号)
築地トップインタビュー
生産から小売の大同団結を
中央魚類 社長 伊藤 裕康 氏
市場発信の情報提供が大切
――第3四半期まで順調に来ている。
伊藤裕康社長 12月は減収だったが、累計は増収増益。上半期から11月までは順調だったが、年末商戦は様子が違った。逆に1月に入ってまた売れ出すなど、量販店の元日営業なども影響しているだろうが、天王山といわれるヤマが時代とともに低くなっているように感じる。
――今期は単価アップに助けられている面も。
伊藤 確かに数量は若干マイナス。単価が9.8%アップした。マグロは15%、鮮魚も12%上がった。マグロは春先から漁船の操業不安もあり、供給面での懸念から魚価がハネ上がったが、逆に上がりすぎで後半は反転。マグロ魚価の変動に振り回された。マスコミは秋になってマグロ問題を大きく取り上げたが、我々市場関係者はいち早く問題視していた。
――マグロで波乱の年に。
伊藤 数量はマグロも鮮魚も6%減少。養殖ものも大幅に減った。鮮魚の水揚げが順調だった一方、養殖ものの魚価が上がった。マグロはビジネスの上で貢献したけれども、減船で何十年も付き合いがあったマグロ船が13隻も廃船となり、複雑な思いがする。
――マグロの国際的な漁業規制は強まる一方だ。
伊藤 東京の市場はマグロが25%を占め、ウエートが高い。漁獲規制は資源管理の上での話なので受け入れざるを得ないが、正直言って日本船が獲る天然ものが減るというのは我々にとって痛い。「漁獲物をより大事に扱わなければ」という思いが増す。海外でマグロを本格的に食べだしたら、状況はさらに変わるだろう。
――輸入水産物の“買い負け”も常態化してきた。
伊藤 中国、ロシアが“強い値段”で買っていく。今まで水産マーケットは日本のペースで成り立っていたが、エビは既に国際商品、サケにしてもサバにしても、もはや日本が主役ではなくなってきた。
――数量減の傾向に不安はないか。
伊藤 鮮魚は旬で動くが、年間でならすと数量はそれほど変わっていない。冷凍魚や加工品が減少傾向にある。
――人口減、少子高齢化の中で、日本の水産マーケットはどう変わっていくと認識しているか。
伊藤 寿司などの人気は衰えていない。子供のファンは増加傾向にある。回転寿司、持ち帰り寿司にしても、そのまま口にできるタイプの“魚食”は今後も有望と思う。肉はある種のシグナルを感じるが、魚は健康イメージが下支えしている。
――魚食志向を背景とした、市場の新たな役割に期待しているが。
伊藤 魚食普及、魚食文化など、市場発信の情報提供が大事だ。何が旬なのか、何がおいしいのか、そういう宣伝がこれまでは下手だった。昨年11月から自社ホームページ「今日の魚河岸」でお勧めの魚を日替わりで掲載している。店のポップなどにも利用されているようだ。小売店での対面販売が少なくなっている今、たとえ忙しくても“市場”であるわけだから、それくらいやらなくては。
――全水卸の会長として、全国の市場に広げてもいいのでは。
伊藤 まずは自分の会社からやる。食育関係も改善協会からの補助金で地道にやっている。
――核家族で、一人暮らしも増えた。包丁を使う人も減っている。業界が団結して取り組まないと現状は打破できない。
伊藤 生産から加工、流通、小売、さらに外食・中食に至るまで、業態によって役割は異なるが、各々の立場で魚の良さをアピールすることが大事だ。漁業者が誇りを持てるように産業として栄えてもらい、一方、消費者においてはおいしく魚を味わっていただく中で、我々は魚の魅力を最大限に引っ張り出すことに努力する。魚に関っている人の全てが一致協力して次代の道を拓くことが本当の意味での“水産業”なのだろうなと感じている。
――今期も見えてきた。少なくとも悪い年ではなかったように思うが。
伊藤 いつ何が起きるか分からないが、今のところは大過なくきている。会社の利益や存続はもちろん大切だが、それだけではなく、最近は業界全体の中で自分たちの役割をいかに発揮できるかという思いが強い。
――来期の計画は。
伊藤 期が変わってどうこうというのではなく、常に前に向かって、変えるべき点は変えていく。流通事情が刻々と変わる中で、我々も、商品も変わらざるを得ない。その変化に応じて組織、人事も考えていきたい。