この人に聞きたい:第81回
(週刊水産タイムス:07/2/26号)
大手水産トップインタビュー
海外の大型M&A、今年は実現を
マルハグループ本社 社長 五十嵐 勇二 氏
――OUGホールディングスとの荷受統合合意が凍結となった。
五十嵐勇二社長 方法論に考え方の違いが出た。詰めていく過程で、平行線となる部分があり、具体的な統合比率の話までいかなかった。
――ニチロとの統合は失敗が許されない。
五十嵐 10月に持株会社のマルハニチロホールディングスを設立して経営統合する。事業会社の設立も半年ぐらいの間に済ませたい。時間を置くほど効果が遅れる。
――統合にはかなり費用がかかるそうだが。
五十嵐 オフィスの移動だけでも10億円くらいは見ておいたほうがいいと言っている。
――事業会社の名称など、決めなければならないことが多い。
五十嵐 970項目もある。本社の所在地(マルハG本社の東京・大手町)、株式交換による統合、会長は田中(龍彦ニチロ社長)さん、社長は私。決まっているのはこの3〜4つくらい。「マルハ」「あけぼの」のブランドは残すが。
――統合効果をどう考える。
五十嵐 第一に事業規模のボリュームが増す。ニチロにとっては世界70カ国、エビだけでも30カ国に及ぶマルハの広範な調達ルートは魅力だろう。マルハには水産物の買付け・販売でのオペレーションが確立されており、回転率がよく、在庫リスクは小さいと思う。
――サプライチェーンがさらに広がる。
五十嵐 日水は「グローバルな一貫体制」を掲げてきたが、ビジネスモデルの上ではマルハもそう変わりはない。ただ、日水がTGLで500億円の海外投資をしたのに比べ、マルハは大型のM&Aを実現していない。2年前に200億円の増資をして、国内外で130億円くらいは使ったが。優良資産の買収は望むところだ。
――今後の成長戦略をどう描く。
五十嵐 国内市場が伸び悩む中で、いくら頑張っても前年実績を確保するのが精一杯という状態が続いてきた。成長を確実にするためにはM&Aが必要。今のニチロほどの事業規模をマルハで拡大するのは不可能な話。ニチロにとっても事情は同じだ。売上高はともかく、利益は経営統合によって拡大できるだろう。
――海外M&Aには資金が必要だが。
五十嵐 ニチロもマルハも資金力は厳しいが、資金調達力ならマルハにある。300億円くらいの買い物に対する負担力はあるはず。海外投資ではかつて痛い目に遭ったこともあり、周到に準備した上で「慎重かつ大胆にやる」と腹を決めている。
――海外M&Aは以前から意欲を示していたが。
五十嵐 外に向かって敢えて発信してきたつもり。そのせいか、いくつも話はきている。今年は一つでも二つでも実現したい。優良資産の積み増しがあれば、多少の外部負債はやむを得ない。
――調達力が増した分、販売力も必要になる。
五十嵐 その通りだが、もともとマルハ調達にウェートを置いてきた。販売力は大事だが、調達がついてこないと、高くても買わなくてはならなくなる。ましてや世界的な資源問題。自信を持つ調達力でさらに強みを増し、優位性を高めたい。
――中期経営計画の2年目が終わろうとしている。数字とのギャップもなくはないが。
五十嵐 国内はアイシア(ペットフード)や北州食品(マグロ)の買収で売上高が増加したが、あてにしていた海外のM&Aが実現しなかった。事業面では海外エビの合弁(マダガスカル、モザンビーク)や冷凍食品の苦戦が影響した。
――ニチロは冷食が得意だが。
五十嵐 マルハと比べてヒット商品が多い。マルハは市販用の展開が遅れているが、ニチロには商品開発力もあるし、子会社のアクリフーズも頑張っている。
――ところで第3四半期までを振り返ってどうか。
五十嵐 どこも同じだろうが、頼みの12月が暖冬で伸びなかった。年末商戦の盛り上がりのヤマが小さくなっている。1〜3月はあまり期待できないため、第3四半期でいくらか貯金しておきたかったが。ただ、荷受部門が単価アップで増収。増養殖事業の伸張もあり、アイシアや北州食品を含めれば260億円程度増えている。
――今年はちょっとした増配ブームになりそうだが。
五十嵐 株主還元は増配か株価のアップしかない。マルハはここ数年、1000億円以上あった外部負債を減らし、収益力も着実にアップしている。120億円の経常利益を安定的に続けている食品企業はそうない。10年ほど3円配当が続いており、早く人並みといわれる5円に持っていきたい。株価にも好影響を与える。ただ、一度上げてしまえば翌年以降に下げるのは経営者として格好が悪い。統合後もにらんだ上で最終的に判断する。自分自身の中で「増配」という気持ちがウェートを増しているのは確かだ。