この人に聞きたい:第102回
(週刊水産タイムス:07/07/30号)
市場のあるべき姿求めて
中央魚類 社長 伊藤 裕康 氏
新秩序に対応した市場構築を
中央魚類・伊藤裕康社長に聞く
今年60周年を迎えた中央魚類。今月始めには記念パーティーを盛大に開催し終えた伊藤裕康社長(全水卸会長)は「自分なりの区切りを付ける意味で60周年祝賀会はやって良かった」と次なる躍進に向け、心機一転を期す。今後の卸売市場のあり方や同社の方針、今期業績などについて聞いた。(聞き手・本紙越川宏昭社長)
――60周年の記念祝賀会の挨拶の中で、「市場のあるべき姿を求めていく」と語った。具体的にどういうことか詳しく聞きたい。
伊藤 私にとっての大きなテーマといえます。歴史を振り返ると、戦後の混乱期にヤミ市が横行する中で、国が透明性のある誰でも安心して使える市場を作り上げました。戦後20年間は卸と仲卸がうまく機能した、いわば卸売市場の最盛期と言えます。
その後、全国各地に卸売市場が続々と建設され、市場間の競争が激化します。同時に実需を直撃する様々な市場外流通も盛んになる。そんな中で、国は卸売市場の縮小・統合へと方針転換し、市場の活性化を目的に規制緩和を進め始めたのです。手数料の弾力化など、自由化をさらに強化しています。
――規制緩和ですね。
伊藤 ただ、赤字経営の仲卸が半数を占め、卸売業者の利益率も低い。卸・仲卸ともに昔ながらの古い体質を引きずりながら商売しているのが現状です。現実に適応しない矛盾が生じています。果たして自由化するだけで市場の活性化が図れるのか。私は疑問に思います。今まで保護と規制で守られてきた市場ですが、それらが外された場合の市場がどうあるべきか、中にいる私ども卸と仲卸が自ら考えていく必要があります。卸売市場の原点を見直す時に来ていると思うのです。
――増える市場外流通に対して、卸・仲卸は具体的に何ができるか。
伊藤 これまで卸は入口、仲卸は出口という位置付けで、互いに補完し合う関係を築いてきた市場ですが、今はそれがうまく機能していません。今後は卸・仲卸だけでなく、漁業者や加工業者までを巻き込んで水産業全体を考え直すべきです。ある一部分だけが儲かるのではなく、産業全体が良くなることが重要。水産業界全体に言えることですが、将来に対するビジョンが誰からも示されていないように感じます。
昨年末に潮目が変わった
――食品畑を歩んできた日本水産出身の高橋専務がこのほど入社したが。
伊藤 日水からというより、あくまで1人の人間として入社してもらいました。10年以上つき合いがあり、どんな人かは分かっています。営業担当ではないのに自主的に朝4時に出社、セリ場を回って、当社が何をやっているかを学んでいます。偉ぶらないその姿勢が彼の良いところです。
――高橋専務の社内での役割は。
伊藤 彼が入社したことで、当社の視野が広がり、考えが深まることを期待しています。新鮮な見方や考え方を取り入れて、さらなる経営改善につなげていきたい。新しい風を吹き込むことで、社内全体の質を高めるのが狙い。私はあくまでコンダクター。皆でハーモニーを奏でさせられるように努めるだけです。
――様々なチャレンジをしている実感は?
伊藤 最近は手がかりや方向性が見え始め、少し前が明るくなってきました。毎日が充実感に満たされており、軌道修正しながら何とかやっていけるという自信が出た気がします。
――第1四半期(4−6月)は減収減益ときびしい滑り出しだ。
伊藤 前期までは順調でしたが、今期は非常に厳しいです。マグロの供給不安から、マグロ売場の商品組成がガラッと変わりました。メバチなど単価が安い魚種が主体になり、売上げが大幅に減少した。冷凍魚だけでなく、養殖魚などを含めた鮮魚も今年から環境が変わっています。
――状況が様変わりですね。
伊藤 国産・輸入品、養殖物・天然物問わず、すべての供給事情が変わり、日本の水産物市場全体が大きな変動期を迎えています。特にこの1年で『潮目が変わった』とみております。20数年来続いた魚価安が昨年下げ止まり、マグロの高騰がありました。この1年だけ見ると、卸売業者にとっては良い年でしたが、昨年12月頃から潮目が変わっています。売場構成を含め新たな秩序で、商売のやり方を模索していく段階と言えます。
――これまでの経営で反省点を挙げると。
伊藤 『この10年は守りに徹してきた』と言われます。自分では一生懸命やってきたつもりですが、振り返ると『攻めていなかった』という反省がなきにしもあらず。しかし、守りも必要なことです。子会社の建て直しをし、本体の膿みも出し切ったので今は万全の体制です。
――今後は「攻めの10年」になりそうだ。
伊藤 どういった攻めになるかはわかりませんが、そうしたいです。良いパートナーに恵まれ、皆で考える素地ができてきました。私が引っ張るのではなく、まとめ役として知恵を集合させていきたいです。