この人に聞きたい:第106回
(週刊水産タイムス:07/08/27号)
全漁連会長に服部郁弘氏が就任
JF全漁連 会長 服部 郁弘 氏
10代目の全漁連会長に就任した服部郁弘氏に地元香川県漁連の会長室でインタビューを行い、これまで歩んだ道のりや今後の抱負などを聞いた。
―― 全漁連会長ご就任おめでとうございます。今日は服部会長の地元での姿などを中心にご紹介したいと思っております。会長の若い頃のお話からお聞かせ下さい。
服部 私の父は漁業者で、兄弟は姉と弟の3人です。昭和34年に学校を卒業し3年間、漁船に乗り漁業の手伝いをしました。その後、養殖業で8年間働きました。ある時、養殖していたハマチが病気で死ぬものが出ました。病気の魚を持って県の水産試験場を尋ね技師の方に相談したところ、親切にいろいろとアドバイスをしてくれたことを覚えています。「たぶんこの病気だろうからこの薬を与えればよい」と教えてもらいました。この時、養殖漁業者の親方や従業員の食費として用意していた5万円を薬代に使い、何とか魚の病気を治すことが出来きました。この時、養殖業は怖いとつくづく思いましたね。
―― その後、何の仕事をなされたのですか。
服部 昭和44年に養殖漁業者の魚の委託販売を京阪神地区向けに始めました。当時は船を使い活魚で運搬し、各市場に販売しました。香川県漁連も養殖魚の販売を行っていましが、私の方が漁連より1年早く販売を開始したと思います。この頃、大阪魚市場の担当者は今の溝上会長で、親しく商売をさせてもらいました。漁業者の方の魚を預かり、間違いなくしっかりと販売しなければならず、漁業者の方の信頼を得なければ成り立たない仕事です。魚の販売価格がkg100円違うと大きな収入違いとなり、餌代や金融機関への支払いなど漁業経営を大きく左右するため、販売委託は大きな責任を伴います。
―― 今ではご自身も漁業者として養殖を営まれていますね。
服部 昭和47年に養殖業をはじめました。この頃までは赤潮の発生はなく養殖業は儲かっていました。ところがその昭和47年に瀬戸内海で赤潮が発生し、養殖していたハマチは全滅してしまいました。
―― 大損害ですね。
服部 はじめて間のない頃で規模が小さく、それほどの痛手ではありませんでした。その後、平成5年に引田漁協の組合長に選任されました。組合長は常勤です。「さて、手始めに何をやればよいか」と思っていたところ、共済をやってはどうかとのアドバイスを受けました。最初の年に新規で10億円の共済契約を上げる成果を得ました。また、次の年は12億円の新規共済契約をとり、100億円の契約保有高をめざしました。3年目も大きな成果を得ましたが、契約保有高はチョコー、くらしで60億円余りを確保したものの100億円までには至りませんでした。しかし、漁協の共済・漁済全国大会では、農水大臣表彰を3年連続で受けることができました。
―― その後、香川漁連の副会長、会長に就任されました。
服部 香川県漁連では、鮮魚の販売等に力を注ぎました。香川県漁連では、首都圏への販売を強化するため、活魚船を東京築地市場に横着けにしたり、神奈川県久里浜に活〆センターを設けるなど、力を注いでいます。しかしながら、長引く魚価の低迷から漁連の経営が落ち込み、平成8年のは200名ほどいた職員を170名まで削減しました。これは退職者など自然減です。その後さらに早期退職制度などを行い、現在は127名までとなっています。漁連については、何とかやっていけるところまで来ましたが、将来に向かって事業に安心感がでるように地道な努力を続けていくように務めています。
―― 養殖ハマチも淘汰が進んだことから、香川漁連など大手サプライヤーの価格形成力が強くなっていると市場関係者は話しています。今後は、明るい展望を築くことができると思いますが、いかがでいすか。
服部 まだそこまではいっていません。しっかりと足もと固めながら、やっていきます。
―― さて、全漁連ですが、5ヵ年の再建計画を立て、繰り越し損失の解消をめざしていますね。このため、出資金の増資などをされていますね。
服部 しっかりと確実に再建計画を実行していくことが第一であると考えています。出資金の30%にあたる増資をお願いし、7〜8億円の増資を行っていただきたいと考えています。すでに5年計画のうち1年半過ぎており、後3年半ですが前倒ししても欠損金を処理していきたいと考えています。
―― 全漁連自身はかなりメドがついてきたと思いますが、漁協全体の欠損金・不良債権等の処理がありますね。
服部 全国の漁協の要処理額は約400億円あるとされていますが、私としてはもう少し掘り下げて本当に400億円なのか、さらに大きい金額ではないか、はっきりとする必要があると思います。これら不振漁協は全国に101あり、重点的な支援を行っていくことになります。行政等も新たな不振漁協対策を講じていただかなければならないと考えています。また、20年度水産予算では、漁業者の経営安定対策として共済の積み立て方式で新たな措置が講じられること、また、さらに充実したものとなるように期待しています。
―― 最後になりますが、高木委員会の提言についてはいかがですか。
服部 先祖から受け継いできた漁場はしっかりと守っていきたいと思っている。漁業者の高齢化などで空いた漁場を活用することは、時代の流れではありますが、どのように利用するかは、漁業者や漁協が決める権利を持っている。漁協が第三者といっしょに事業を行うというのであれば問題はないでしょう。しかし、漁業者や漁協の意思を無視した漁場利用は、受け入れることができません。将来に向けていろいろとやらなければならないことはありますが、まずは経営基盤の建て直しを図っていかなければならないのです。