この人に聞きたい:第108回
(週刊冷食タイムス:07/09/11号)
極洋 創立70周年迎える
(株)極洋 社長 福井 清計 氏
福井清計社長に聞く〜70年の足跡と展望
海外に目を向け攻勢かける
着々と生産拠点拡充
極洋は今月、創立70周年を迎えた。昭和12年「極洋捕鯨」としてスタートし、鮭鱒、えびトロールなどの漁業会社として発展。時代の変化に応じ、いち早く海外貿易に新たな活路を見出して業容を拡大してきた。近年は「買い付けた水産原料を右から左に流すビジネスはもはや通用しない」(福井清計社長)と、付加価値の高い加工食品事業に力を入れている。この数年進めてきた海外生産拠点の拡充を背景に、まもなく攻勢に転じる。福井社長に話を聞いた。
――創立70周年おめでとうございます。
福井清計社長 ありがとうございます。70周年という意義ある年に私が社長として巡り合わせた訳ですが、志水さん(8代社長)、石瀬さん(9代社長)が特に70周年を楽しみにしていただけに、ぜひ出席してほしかったのですが残念です。これまで極洋を支えてこられた先輩諸氏に、いま改めて感謝の思いを深くしています。
――この70年を振り返って。
福井 昭和12年に山地氏が極洋の前身である極洋捕鯨を立ち上げ、草創期は捕鯨業をはじめ、鮭鱒、えびトロールの漁業会社として発展しました。昭和30年代に加工食品も手掛けるようになると、事業の幅が広がり、缶詰や魚肉ハム・ソーセージ、ラーメンも扱うようになっています。
――福井社長の入社は昭和37年。
福井 45年前の話になりますが、入社当時は激動期で当社の株価が30円台に落ち込んだ時もあり、タバコの「ピースよりも安いね」と冷やかされたこともありました。加工食品部門は昭和37年から45年まで赤字続きで、今にして思えば辛い苦難の時期でした。
――捕鯨から漁業、加工食品へと広がっていった。
福井 鯨を中心とする会社から、鮭鱒などの漁業会社へと転換を果たす中で、国民への食料供給という大きな社会貢献を果たした会社だと思います。その点は社員一同、誇りに感じていいと思います。捕鯨会社としては大洋漁業(現マルハ)、日本水産に次いで規模は3番目。水産会社としては4番目でしたが、貿易は志水氏(8代社長)の卓越した経営判断で、他社より先に開始しています。
昭和50年以降は捕鯨、さらに200海里規制でトロール漁業からも撤退を余儀なくされ、漁業会社としての看板を外さざるを得なくなりました。奇しくも70周年の年に、国際情勢から鯨缶詰の販売を中止することになりましたが、入社当時、鯨缶詰をかついで売り回っていた私としては、寂しい思いがします。
――現状と今後をどう見ているか。
福井 今の事業の柱は、(1)水産商事(水産加工1〜3部)(2)加工食品(水産冷凍食品部・調理冷凍食品部・常温食品部)(3)かつおまぐろ事業(水産加工四部)(4)物流事業――の4つ。水産物を買い付けて、右から左へ流すというビジネスはもはや通用せず、加工度を高めた商品が中心になりつつあります。
かつおまぐろは極洋水産の海まき鰹が堅調な魚価に支えられて好調。大手水産会社の中で、海まき船を所有しているのはマルハグループの大洋エーアンドエフと、当社グループの極洋水産だけです。このほど着手したマグロ蓄養事業も、できるだけ早く一本立ちさせ、大きな柱にしたい。
マルハや日本水産に比べると規模は小さいですが、商品力や開発力、さらに人材面で遜色(そんしょく)はないと自負しています。加工食品は缶詰を除けば業務用が中心で、量販店の惣菜コーナーなどでは「極洋ブランド」の商品がかなり活躍しています。チャンスがあれば市販用にも食い込みたいと考えています。
――冷凍寿司に本格的に取り組んでいる。
福井 これも何としても成功させなければならない事業。寿司ネタ、冷凍寿司はタイの合弁会社、K&Uエンタープライズの新工場が昨年竣工し、いいスタートを切りました。日本向けに寿司ネタ、欧米に冷凍寿司を販売しています。冷凍の巻き寿司は当初、米国に力を入れてきましたが、このところカナダで引き合いが強まっています。品質的な問題もなく、商品は高い評価をいただいておりますが、日本の大手が追随する動きもあり、品質面でさらに磨きをかけていきます。
――現在の生産状況と今後の展望は。
福井 寿司ネタが月産300t(約2000万食)、冷凍寿司が30t(約200万食)とフル稼働状態です。最新鋭の立派な工場で、品質管理を徹底しているため、クレームはどこからも届いていません。この事業は慎重かつ粘り強く取り組んでいこうと肝に銘じています。
冷凍寿司に象徴されるように、世界的な水産物需要の高まりはもはや一過性のものではありません。シアトル(米国)、青島(中国)、アムステルダム(オランダ)などの海外拠点をベースに、これから一歩も二歩も踏み込んでいかなくてはならない分野であり、人材育成、組織の充実にも力を注いでいます。
――加工食品は中国産が大きなシェアを占めているが、いま安全面が厳しく問われている。
福井 中国加工品が年々増えている中で、今回の中国産バッシングは我々にとって非常にゆゆしき事態です。このほど第3回中国極洋会(極洋の協力会社の会)を開いて意見交換しましたが、各社の社長も我々と安心安全の考え方については全く温度差がなかった。「中国産イコール危険」のような報道は明らかに行き過ぎていると思います。日本の“食”のかなりの部分を中国加工品に依存している事実を考えれば、国レベルで対処すべき問題だと認識しています。
――今期の第1四半期は業界全体が厳しい状況だったが。
福井 大変苦労しました。ポイントゲッターであるはずの水産商事に想定外の出来事があった。端的に言えば買い付けの失敗であり、相場見通しの甘さが露見した形。アルゼンチン赤えびは買い付けた直後に相場が下落、鮭でも同じようなことが起きました。水産物販売の天王山である第3四半期で、何としても挽回(ばんかい)しなければならない。
逆に、かつおまぐろ事業と加工食品はほとんど落ち込んでいません。海まき鰹は予想以上に良く、本体の業績に大きく貢献。極洋海運も原油高の中で、世界的な運搬船不足もあり、堅調な運賃市況に支えられています。他の子会社も概ね順調で、本体の苦戦をカバーしています。
――10月にマルハとニチロが経営統合するが。
福井 方法はいろいろあると思いますが、結局は極洋なりの独自性をいかに出せるかということに尽きるでしょう。4本柱の一つであるかつお漁業は当社なりの事業であり、効率のいい漁業を残してもらったと先輩に感謝。他社にないものをいかに伸ばせるかが重要なポイントです。規模が拡大すれば、それなりの苦労も伴う。大きければいいという単純な話ではないし、がっぷり四つに組むつもりもありません。逆に小回りを効かせ、スピーディーな対応に努めれば独自性を発揮できます。
とはいうものの、M&A(企業の合併・買収)そのものを頭から否定するつもりはありません。同じ理念を持つ会社同士が協調することで、社員や株主にとって好結果をもたらすのであれば躊躇(ちゅうちょ)する必要はありません。
いずれにしても確かなことは、海外に目を向けていかなければ我々の未来の展望は開けないということ。日本の人口が少子高齢化で頭打ちとなる中で、世界的に「サカナ」への注目が高まっていることをチャンスと捉えたい。中国で加工して中国で売るというケースも当然考えていかなくてはならない。
世界に目を向ければ希望があります。ですから70周年だからといっても、ノスタルジックな思いはありません。