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この人に聞きたい:第111回
(週刊水産タイムス:07/10/01号)

新たなステージ 新たなチャレンジ

マルハニチロホールディングス
会長 田中 龍彦 氏 / 社長 五十嵐 勇二 氏

プロフィール:代表取締役会長 田中龍彦(たなか・たつひこ)
慶大経済卒業後、日魯漁業(現ニチロ)入社。資金課長や総合企画部長代理、財務部長、常務取締役などを経て、平成13年から社長。昭和16年生まれ。

プロフィール:代表取締役社長 五十嵐勇二(いがらし・ゆうじ)日本興業銀行で取締役債権業務部長、常務取締役管理部長、同大阪支店長など歴任。平成12年マルハへ。14年から社長。東大法卒。昭和17年9月生まれ。

良い商品を安定的に供給── 田中会長
海外舞台で大いなる飛躍── 五十嵐社長

 「世界においしいしあわせを」――新スローガンを掲げて勇躍スタートした株式会社マルハニチロホールディングス。マルハ127年、ニチロ100年の歴史と伝統を生かしつつ、新たな時代の中で“世界の食”に貢献する食品企業グループを目指す。これから経営資源の「選択と集中」をどう進めるか、企業価値の最大化をいかに図るかなど、田中龍彦会長、五十嵐勇二社長に抱負を語ってもらった。

――いよいよ新たな時代がスタートした。

田中龍彦会長 大変張り切っている。9月25日付でニチロの株式上場が廃止となり、新聞の株価欄からニチロの名前が消えたのは複雑な心境だが、それ以上にマルハグループとの経営統合による新しい会社への期待感の方が強い。
 昨年12月に経営統合を発表してから、マルハとの具体的な検討作業を進める中で、理想と現実がはっきり見えてきた。大きな統合であるから、走り出しながら進めていく点もあろうが、きっと良いスタートが切れると思う。
 我々の経営統合は規模を大きくすることが目的ではない。統合によって強い企業を作り上げることが本来の狙いだ。食に携わる企業として、良い食品を安定的に供給することが第一の責務。水産物の需給が世界的に逼迫する中で、いかに調達し、安定供給していくか。まさにエクセレントカンパニーとしての真価が問われるし、そのために高邁な理想を持たねばならない。
 幸い、マルハは127年、ニチロは100年の歴史の中で厳然と培われたものがある。それを核にして、真の意味で強い企業体を作っていきたい。

五十嵐勇二社長 これまでマルハもニチロも成長戦略、事業強化・拡大を通じての収益拡大、財務体質の改善を掲げてきたが、国内中心のビジネスでは限界がある。同じ問題意識を抱えて結びついたのが今回の経営統合。1プラス1が3になればいいが、そう簡単なことではない。
 マルハの社長になって6年目。業績面では前年実績を確保しにくい状態が続いてきた。頑張る材料が何もなくして、社員に「頑張れ」とはいえない。
 今回の統合を局面打開のきっかけにする。新しい武器による新たな展開。今後の成長戦略を描く上で海外展開が大きな比重を占めるが、これも経営統合によって可能性が広がるはず。海外展開を図るにしてもある程度のパイの大きさが必要だからだ。
 国内事業でも、マルハとニチロでは“強み”が異なっており、水産、食品ともに商品ラインナップの拡大につながるだろう。
 今、社員のモチベーションは双方で高まっている。「次のステップに行けるぞ」という雰囲気になっている。

――何をもって経営統合を成功と位置づけるのか。

五十嵐 数値的には「グループ売上高1兆円、営業利益300億円」を既に目標として公表した。当面の最大の課題はマルハ、ニチロの両社を一早く一体として融合させることだ。これは双方が努力する必要がある。マルハ、ニチロとも育ち方からして似ている。歴史と伝統が息づいていることでも共通しており、もともと仲が良かった間柄。支社レベルでも「軋轢(あつれき)を生じるよりは仲良くやろう」と気持ちが強くなっている。

田中 ニチロはここ数年、高めの目標を設定し、「これをやり遂げよう」とハッパをかけてきた。余談だが、こうしたやり方が実はアナリストの不評を買っていた。売上高1兆円、営業利益300億円というのはすごい数字だが、規模が大きくなっても内容が良くなければ、決して良い位置取りはできない。

――販売体制の強化が期待できると思うが。

五十嵐 マルハの商品が強いとされている販売先に、ニチロの商品も提案できる。逆もしかり。ニチロは市販用冷凍食品が強いので、そういった売り場にマルハの缶詰や魚肉ソーセージ、ゼリーなどを置いてもらえるよう働きかけることができる。
 一方、荷受サイドではいわゆるマルハ系という概念があったが、ニチロは様々な荷受とお付き合いがある。荷受との関係も徐々に変化が生じてくると思う。

田中 これから先も“魚ビジネス”は決してなくならない。もはや世界でなくてはならないものになっているし、こうした魚食文化が広がりゆく流れは将来も続くというより、今の世界的な水産需要の高まりを考えれば、より顕著になっていく。
 その割に、日本では水産ビジネスモデルの“答え”が出ていない。特に日本はプレーヤーが多すぎて川上が弱い。ニチロも世界中から良質な水産物を集めることに腐心してきたが、全体の販売数量のうち、ニチロが直接調達できた魚は半分くらい。あとの半分はいわゆるヨコの商売だから、これでは利益が乗らない。
 漁労全盛期の時代は加工・販売などをあまり考えなくても済んだ。ドーンと獲ってしまえばそれで終わり。魚価が多少安ければ、もう一網入れるだけのこと。時代が大きく変わってきているのに旧態依然とした形を残していたら、もはや生き延びることはできない。魚の食べ方そのものも変わってきているのに、その対応ができているといえるだろうか。川下が統合する中で、量販店のバイイングパワーが増すばかり。川上は依然として汲々としたまだだ。
 卸売市場の機能と役割も絶対になくならないと思うが、これからは物流機能を有する荷受が望まれるなど、時代ニーズの変化が生じてこよう。

五十嵐 今回の経営統合によって、例えばイオングループに対する発言力が増すということは考えにくいが、提案力は少なからず増すだろう。原料が高騰しても製品に価格転嫁できない状況に少しでも風穴を開けたいと望んでいる。
 もう一点、ご存知の通りニチロは冷食が強い。独自の“あおり炒め製法”で作り上げた看板商品の「中華炒飯」をはじめ、子会社のアクリフーズもグラタン製品が得意。これに対し、マルハの冷食事業は業務用が中心で、その中でも水産由来の製品が主体だ。こうした加工食品の豊富なラインナップを今後の事業展開にどう生かしていくかがカギ。(商品開発などの)機能をうまく結びつけ、一体感を持った取り組みが成功への重要な要素となる。

――今回の経営統合は「グローバル戦略」が大きなポイントの一つだが。

五十嵐 両社とも日本市場は9割を占める。海外市場は10%に過ぎないが、今後伸びるのは海外。マルハは水産事業で「世界の魚屋」を標榜してきたが、ニチロと経営統合することで、水産セグメントでは恐らく世界最大になる。
 特にアメリカへの取り組みを強化したい。アジアも国内向けの生産・加工工場を充実させる。将来の大規模なM&Aへ向けて、具体的に手を打つ。生産・調達がクローズアップされがちだが、加工・販売とは両輪の関係だ。

――両社とも研究部門を持っているが。

田中 我々が携われる領域は化成品までだ。食品でも特保(特定保健用食品)までで、医薬品までは行けない。従って付加価値の高い商品、差別化できる商品づくりにあって研究・開発は不可欠な分野。「中華炒飯」も他社の牙城としてきたカテゴリーに、ニチロが“あおり炒め”という技術開発に成功したことで本格参入が実現した。

――安心・安全面への取り組みも強化されるか。

田中 大手メーカーといわれる食品企業は品質管理や安全面に相当なコストをかけている。食品を扱う企業にとって最も重要なポイントであり、新会社もさらに強化していく。

――社員に対して。

田中 企業の競争力は社員の「質×量」で決まる。同じ会社の社員として一人ひとりがイキイキと躍動すれば全体は必ず魅力ある企業になるというのが私の持論。全員のベクトルを合わせて、「いい仕事」を心がけ、新しい会社の成長に取り組んでいきたい。

五十嵐 国内市場も海外市場も、これまでの延長では進めない。新たな事業展開を可能にするためにも、新しく生まれた可能性を生かすことで、次の飛躍に向かう道を開いていきたい。

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