この人に聞きたい:第128回
(週刊水産タイムス:08/02/04号)
築地トップインタビュー
築地魚市場 社長 鈴木 敬一 氏
魅力の上海に現地法人
魚の真価を認めてもらう
――上半期は各社苦戦したようだ。
鈴木社長 当社も下期で回復を図るべく努力しています。前年度は当社始まって以来の史上最高の業績で、営業利益が黒字に転換しました。今期は昨年ほどではないが、個別・連結ともに営業黒字になると見込んでいます。
――本業でしっかりと稼いでいる。
鈴木 本業である卸売部門で利益を出すことが最も重要ですが、時の流れも後押しとなりました。昨年の夏まではマグロが良かったですし、経費削減、不良債権の回収、営業努力などが功を奏し利益率も向上しました。
――年末商戦は。
鈴木 まあまあの成績でした。12月単月で前年比97%(兼業含め)、本業で98%。正月以降も堅調に推移しているので、このまま行けば営業利益も黒字化するでしょう。
――昨年を振り返って。
鈴木 昨年末に上海の新しい卸売市場内に販売拠点となる現地法人を設立しました。方向性を変えたという点で、中長期的に見ると当社にとって意義の大きい取り組みといえます。
上海は経済発展が進み、周辺人口を含めると約1800万人の巨大都市。成功するのは容易でないと思いますが、これほど魅力ある市場に進出しない手はない。チャンスがあるからこそ出店を決めました。
――今後の展開が楽しみだ。
鈴木 日本食レストラン向けの加工品などから始め、ゆくゆくは鮮魚や、ホタテやフカヒレなどの中華商材も扱いたいです。経済発展がさらに進めば、高級食材も今以上に売れるはず。種類豊富な日本近海の鮮魚なども将来的に期待できる商材です。まずは冷凍品から。ニーズに合わせて、やっていきたいです。
――アジアの中の日本市場の行方は。
鈴木 国内の卸売業者の今後のあり方が問われています。市場経由率は低下し、今後上昇する見込みもあまりない。市場内だけで商売する時代は終り、海外を含めた市場外に目を向ける必要性があります。需要の高い所で商売するのは商いの基本。私たちの強みは、水産物を販売するノウハウを持っていることです。
――今年4月に60周年を迎える。
鈴木 還暦を迎えると同時に、新しい東市、第2の東市がスタートする。
3年前に策定した中期経営指針については八割達成できました。債権回収の徹底や営業利益の黒字化、人事での成果主義、グループ制の導入、加工事業や海外事業への参入など、積極的に進めてきました。
今年は第1世代から第2世代へ移行する節目の年。大きく羽ばたくために、今年は人事の刷新やゼネラリストの育成、若手の登用、社外からの人員補強など課題は山積みです。
策定中の第2次経営指針は、第1次の線に沿って、戦略は変えず、細かな戦術を変えていくつもりです。
――変革するにはエネルギーも必要だ。
鈴木 水と同じで流れがないと淀むし、腐ってしまいます。良い面も悪い面もありますが、中長期的にはプラスになるはずです。
時代は「物余り」から「物不足」へ、「潤沢」から「欠乏」の時代へシフトしています。石油をはじめ、森林や水も欠乏。日本では人材や若手のやる気、気迫も欠乏している。
水産物の資源がピークに達している一方で、需要は世界中で増加している。これらの変化は世界的な問題ですが、決して他人事ではありません。地球的な視野を持ちながら、それらの変化に当社としてどう対応していくかが重要になっています。
――魚離れなど日本の消費は減少しているが。
鈴木 非常に大きな問題です。なぜ日本の漁業が衰退しているか。答えは簡単。儲からないからです。資源が減ったことも一因ですが、魚価安が最大の原因。燃油高でコストばかり上がっています。世界的には魚価は上がっているのに、なぜ日本では上がらないか。
魚の良さが消費者に理解されずに、他の食品との競合に負けているからです。魚の利点をもっとアピールし、他の食品よりも優れている点を消費者に理解してもらうしかないでしょう。
日本は資源のない国ですが、唯一水産資源だけは豊富に残っています。その貴重な資源を守るには魚価の上昇が必要不可欠な条件。そのために、消費者への啓蒙活動は重要で、マイスター制度は良い取り組みだと思います。
魚の本当の価値をPRし、簡便性を高め、魚の消費を増やしていくしかない。さもないと今後日本は食料危機に陥る可能性がある。
――魚に対してはすでに高いというイメージがある。値上げは難しいのか。
鈴木 値上げという言葉が良くないです。価格を上げるというよりも、魚の真価を認めてもらうと言った方が適切。このまま行けば、日本の水産物資源を壊滅させることになる。